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第173話
あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その27
「 特にあの子は、ひっかけて失敗したと思うぐらい真面目に向かってくるんで 」
「 くるんで?」
「 家に入れたのが不味かった……」
「 それで?」
「 だからあんたとは一緒には住めない 」
そう言うと俺と自分のペニスを握って弄りだす。
「 セックス依存症?俺ってそんな病気かも 」
暖かい湯の中でジュンヤに扱かれ、もたげてきた二本の肉棒の周りでゆらゆら揺れる陰毛の中に前途多難の文字が見えた気がした。
まだ欲しいのかと聞くと、うーんどうかな?もういいか……と体重を預けてきた身体を背後から抱いてると湯滴の音もしない浴室に俺の身体も睡魔にやられそうになる。
ジュンヤのケツを軽く叩いて身体を起こすように促し、フックに掛けたバスローブで濡れた身体を覆ってやると、
「 あー、やっぱり甘やかされるの癖になりそうだ。俺さ、最近反対の立場多いから。ねぇ、俺の髪も乾かすんだろ?あんたのことだから 」
クスッと笑いながらジュンヤは後ろを振り向く。
「 甘えるのは俺だけにしろよ、これからは 」
「 へぇ、じゃあ甘やかすのは続けてもあんた的にはオッケーなのか?」
「 正直、わからない。俺はお前を構いたいがお前の生活にまでは文句は言わない、と思う。今はね、こうやってジュンヤといる時間があることが嬉しいよ 」
「 はは、意外と健気なのな 」
この時のことを苦く思いだすのはもう少したってからの話だった。
三鷹で知人と会った後にジュンヤの店に寄ってみようと思ったのはここしばらくお互い連絡もしてないと気づいたからだ。頻繁に連絡を取り合うという余裕のない仲でもない、というより仕事以外にそんな頻繁に個人的に連絡する相手が今まではいなかっただけに、個人的、頻繁、ということに怖気づくところも自覚してる。
菅山を誘ったのだが緊急の職員会議で遅くなるという。ライブの時間には無理そうだが俺はジュンヤの演奏を聴くという口実で寄るつもりだからそこは遠慮せず。バックドアの扉を前にしたのは7時にもう少しという時間だった。
ドアの引手に手をかけたところで、
「 こんばんは、青木さん?
でしたっけ 」
背後からおまけに名前を呼ばれる不快さにその声を無視しながら店の中に入る。声で思い出したよ、ジュンヤの病室にいたあの子だってことを。
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