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私こと、モブ子の事

 家に帰り、お風呂に入って今日の身体の疲れを癒す。それからBL本片手にベッドに入って心の疲れを癒すのが私の日課だ。  壁一面の本棚には厳選されたBL本がこれでもかと並んでいる。もちろんベッド下収納もBL本、でもこちらはちょっとドギツイ…明け透けに言うとドエロい本が厳選されている。もちろん薄い本もある。  三十路腐女子、日々の潤いは可愛い男の子観察とBL本。両親が往年の某野球青春漫画のヒロインにあやかって付けた名前は朝川南。子供の頃から揶揄われたり絡まれたりして煩わしい名前だと思っていたが、ほとんどが実害の無い可愛いもので、今では「むしろ会話のきっかけにはちょうどいい」位に思っている。  西くんも私の名前を知ると「南ちゃん」なんて声を掛けてきて、私もその状況を楽しんでた。初めから変な奴だと思ったわけじゃなくて「カッコイイ子がいる。攻めだな」なんて観察していた。あんなヤリチンクズだと知るまでは。まぁ、見た目が爽やかαだから仕方ない。  いつもの定食屋、客の少ない時間帯、こぼれ聞いた休憩時間のバイト同士の雑談。BL本の中のヤリチンクズ男も真っ青な西くんの武勇伝を聞いた時には、正直『マジか!!!!』と魂が抜けた。その後気を取り直して本屋で目当ての新刊を購入し、ホクホクと帰る途中で西くんに会いそこから猛烈に一晩のお誘いを頂いている。しかもその後、私より年上の既婚バイト女性にコナをかけている現場も目撃した。  見た目印象だけで良攻め認定していたのに、脆くもその理想が崩れ去って落胆したのは記憶に新しい。今となっては、残念ヤリチンを更生させる天使、もしくはグズグズにメス堕ちさせる悪魔が現れてくれないかと願っている。  そうだな、今日はヤリチンチャラ男が堕とされちゃう話を読もうか、とベッドの下収納から腐女子じゃない人にはとてもじゃないけど見せられない、いや腐女子でも人を選ぶか…という漫画本を引っ張り出し、「この本はちんこ描写が最高なんだよね」とほくそ笑む。  イケメンクズ西くんは勝手に私が処女だと思ったようだけど、残念ながら処女では無い。自分の彼氏には若いイケメン要素は必要ないと思っている。むしろ、女はモブ! なので私の好みも自然と? モブおじさん寄りになった。人間年を取るとなかなかピュアピュアだけで生きていけないもので、うっかりモブおじさんに遊ばれてしまったりと痛い思いもしている。だから正直な所、ワンナイトなんて有り得ない! とか思ってないし、言い寄られることは悪い気だってしていない。ただ、その後を考えると限りなく面倒くさいのだ。  身体の関係を持つという事は、少なくとも身体だけでも近く触れ合う事で、自分の意思に関わらずうっかり好きになっちゃう事もある。その点で安易に下手な相手と関係を持つのは避けた方がいい。もうそれはBL本の中でも嫌という程語られているし、実体験に基づく反省でもある。  そして、そういう相手として西くんは面倒くさい事になるフラグが立ちまくっている。彼女はいるし、所構わないヤリチンだし、口も軽い。私が本気にならなかったとしても地雷だらけだ。相手にしないに越したことはない。と考えて、つい勢いで行ってしまったけどまさか私が出した条件揃えて来ないよね? と薄ら寒くなる。普通だったら諦めると思うけど相手は話の通じない程のバカだ。油断はできない。  しかし、モブ子として目の前で繰り広げられるイケメンアナル開発からの男同志の絡み、出来ればその先はナイスアシストでラブに発展させる…なんて夢でしか無い。まさか実現なんてする事ないだろうし妄想を楽しむ位は良いじゃないかと開き直る。  さぁ、妄想前のネタの仕込みに入ろうか、と私は取り出したままの本を開いた。

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