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本命登場?
西くんから連絡が来たのは10日程経ってからだった。
あんな無茶な条件が達成できるはずないと思っていたし、そもそも連絡先なんて教えてないのに会社にいる時間に電話が掛かってきて驚いた。職場で電話に出てしまった事もあり、早く切りたくて適当に返事をして今日会う約束を取り付けられてしまった。
そして約束の金曜日夜。待ち合わせに指定された居酒屋に向かっている。あ~、気が重い!
どうしてあんな条件出しちゃったのかな。イライラしてたからって無視すれば良かった。そもそも、条件のんでくれる人がいるってのも本当なわけ? 唯の男2人の3Pならともかく、男同志の絡みありだよ? 西くんもお尻開発されちゃうんだよ? それでいいの!? 相手はゲイ、もしくはバイか…、もしかして西くん並になにも考えてないヤリチン仲間だったらまずいんじゃないだろうか。
そもそも何が一番まずいって、好奇心に負けてこんな所までのこのこ着ちゃった私がまずいんじゃない!? 一番のバカは私じゃない!?
あぁ、だけど、だけど…
女癖はクソだけど、西くんは見た目だけなら稀に見る爽やかα。相手はどんな人かは分からないけれど、ゲイAVにしたら、例えモブ相手だって中々の売り上げを出すんじゃないかと思う。というか、そんなんあったら私が見たい。
そんな夢のような光景が目の前で繰り広げられる可能性があるわけだ。私の存在は邪魔だけれど、見れるものなら見たい。目の前で繰り広げらる美青年の痴態、そして睦言…。それって腐女子の夢でしょう!?
…だからって自らを餌に危険に飛び込むような真似をしなくても…と理性では思うのだけど、その出歯亀的好奇心が抑えれられていればこんな所までやってきてないわけで…。
処女ってわけでもないし、三十路だし、彼氏も旦那もいなくて守らなきゃならないような貞操もないし、いいんじゃない!? 何より、今までの人生の半分以上を腐女子的欲望のために生きてきたよね。このチャンス、逃したら一生後悔する!
鼻息荒く心の中でガッツポーズをして、待ち合わせの居酒屋に乗り込む。
「いらっしゃいませ!」
店内に入ると店員のお兄さんに景気の良い声を掛けられる。普段私が足を踏み込まない大学近くの居酒屋でリーズナブルで学生が多い印象だ。金曜夜の居酒屋は賑やかで、気の合う友達と一緒なら一週間お疲れ様と楽しくなる所だけれど、今日ばかりは気が重い。自分のテリトリーでないのは何となく不安だけれど知り合いに会う可能性が少ないのは都合が良かった。
店員さんに連れられて先に来ているという西くんの席に案内される途中、ほろ酔いの大学生男子が戯れるのを見かけてこんな状況じゃなければこの空間は妄想天国なのにと少し恨みがましくなる。
「こちらです」と通された先は小上がりの奥、幸いな事に人目にはつかなそうな場所だ。
きたきたと西くんに陽気に手を振られ手招きされる。中身は残念なのに相変わらず見た目だけは一級品だ。
「こっちに座って~」と西くんの隣りに座るよう促される。他に人がいなければ無視して正面に座る所だけれど、既に西くんの正面は埋まっていて諦めて隣りに座る。
腰を落ち着けて正面に座ると、とんでもない条件でやってきた人を見て驚いた。
何、この空間! 天国!? え、私夢見てるの?
取り敢えず、人ととなりを知らなくても「来て良かったーー!!」と叫びたいレベルの可愛いめの好青年がいた。
西くんが爽やかαなら、こっちはαと間違えられちゃう位出来のいい優等生Ωって感じ、もしくはチャラαに狙われちゃう真面目α。
場所移動するから二人に並んで欲しい。そして写真を撮らせて欲しい。更にツイートしてもいいかな!?
心の中で願望を叫びながら素知らぬふりして「お待たせしました」とすぐにやってきたビールのジョッキを受け取る。
「あれ? 私まだ頼んでないよ」
「先に頼んどきました。南さんビールで良かったですよね」
西くんがいつもの定食屋バイトの顔で愛想良く言う。こういう気が利く所はいいんだけどねぇ、と感心してため息を吐く。
「南さんも揃った所で改めてカンパーイ!」
陽気に西くんが言い乾杯すると、目の前の優等生イケメンくんが笑顔で「はじめまして」とビールのジョッキを合わせてくる。西くんのジョッキは可愛らしいピンク色の何かだ。見た目のイメージは逆なんだけど案外しっくりくる気もする。
「北山智です。西とは高校の同級生で、今は学部違うんですが同じ大学です」
第一印象どおりのきっちりとした自己紹介が好印象だ。私が自己紹介を返す前に、横から西くんが私の紹介をする。
「こちらバイト先で知り合った朝川南さんね。あの条件出したチョー面白い姉さん。因みに《南ちゃん》て呼ぶと怖いから読んじゃダメだよ」
こっちは対照的に適当な紹介だ。条件、と話題に出されて何でここで顔合わせしているのかを思い出してちょっと気まずい。そして、目の前の優等生顔の北山くんを見て『この子がOKしたんだよねぇ。世の中見た目だけじゃわかんないな…』と西くんと知り合ってから何度目かわからない呟きを胸の中に落とす。
落ち着いて改めて北山くんを眺める。人懐こい感じでちょっとチャラチャラしたリア充感が前面に出ている西くんと対照的に、印象は真面目で大人しめ、誠実そうに見える。顔は西くんより甘くやや可愛い目、髪型もサラサラストレートのマッシュヘアで手を入れている感じはない。体形は西くんと同じかやや細めだけどもしかしたら着やせして見えるタイプのような気もする。服装も西くんと比べると地味で無難な感じだ。
どちらが好みかと言われたら、北山くんの方が好みだな。
受け攻めで言ったら、西✕北山だな。でも大穴で北山✕西も良いかもしれない。むしろリバもあり? といつもの腐女子思考で考える。そして、はっと気づいた。
いつもはただの妄想だけど、今回に限っては妄想じゃない…!?
《私✕西✕北山》? それとも《北山✕(私✕西)》、もしくは《私✕(西✕北山)》か《私✕(北山✕西)》…混乱してきた。
とりあえず《私✕西》は確定だろう。問題はその後《西✕北山》か《北山✕西》かだ。そして、できればそこから《-私》をしたい所だけど、良くてもフェードアウトか…。
真剣に考えすぎて、今日は寒かったとかなんとかその場で流れる当たり障りのない話題を上の空で相手する。
ああ核心を聞きたいけれど聞きづらい。でも、これくらいザワザワ煩い方が話しやすい?
そもそもここにいる時点で性的にはオープンなはずなので、話しても問題ないのか。前提が3Pだもんねぇ~…。と自分の事は棚に上げて切り出した。
「ところで、本当にいいの? 条件覚えてる?」
西くんも気になっていたんだろう、突然の話題転換に食い気味でついてくる。
「南さんこそ、今更やだって言わないでよ。俺ちょー楽しみにしてきたんだけど」
「や…、まぁ…うーん…」
改めて言われるとやだって言いたい。むしろ貴方たちを眺めていたい。
「いいんだよね? せっかく北山も連れてきたんだし! 北山もイケメンでしょ」
そうだよね~、トホホ。と心の中でため息を吐き「まぁ、いいけどぉ~」と往生際悪く呟く。
「それより、西くんはいいの? てか、北山くんもいいのかな? まさか騙して連れてきてないよね」
疑ってかかる私に笑って北山くんが返事をする。
「大丈夫ですよ。『条件』はちゃんと聞いてます。西と絡めばいいんですよね」
この落ち着き払った返事、北山くんはもしかして神か!!!!
「俺も覚えてるよ。南さんが俺のお尻開発してくれるんでしょ? そういう風俗とか行った事ないから楽しみにして来ちゃったよ!」
そして、何も考えてなさそうな西くんの返事。そうか、そういう風に捉えたのか。確かにお尻の性感ヘルスもあることだし、その辺の抵抗はないんだね…。なんておバカ受にありがちな低能さ…。
「えーと、てことは…北山くんは…?」
「バイですね。なので、南さんも大丈夫ですよ」
質問の意図を読んで答えてくれる。
バイかぁぁぁ~、残念!
私のことは大丈夫じゃなくてもいいんだけど…、でもこのルックスなら私は役得か。
「なるほど、ゲイだったら見たくないもん見せちゃうんじゃないかと思ったんだけど、バイなら平気だね」
年上の威厳というよりはヤケクソで答える。
「西くんはノンケだけど北山くんと絡むのはいいって事?」
一応確認の為に聞いてみる。
「ノンケ? 女が好きって事? 北山なら顔良いしキス位は平気だと思って。憧れの3Pだし、南さんとヤレるならいっかな」
呆れる程頭の悪そうな返事が返ってくる。
あーぁ、見た目のいい男はヤリ目かよ…と嘆いて、目の前のイケメン2人を見る。北山くんなんて誠実そうなのに残念すぎる。
「噂には聞いてたけど、西は驚く程変わっちゃったなぁ」
ため息を吐いて北山くんが言うと、慌てて西くんが会話を止めに入る。
「あっばか! 昔の事言うなよ!! 俺だってお前がこんなん乗ってくるの驚いてるわ!」
「今はこんなんだけど、高校の頃は純情だったんですよ」
「そうなの?」
昔から女たらしだと思ったら違うんだ。心底驚いて相槌を打つと顔を赤くした西くんが反撃した。
「北山だって優等生だったじゃねーか!」
「俺は今でも優等生だろ」
「こんなん、3Pに乗ってくるとかさぁ、とんだムッツリじゃん!」
「そんな事オープンなのは西くらいだろ。普通は隠すよ」
「…自分から話に乗ってきたくせに…」
西くんのリア充ヤリチン全開じゃない、初めて見る昔の顔にドキドキする。
過去を知ってる同級生感! 西くんを簡単に抑え込んじゃう北山くんとの年相応なやり取り! ありがとうございます!!
あーもう、私完全なモブ。モブは目立ちすぎないよう、以下に上手く二人を近づけるかが腕の見せ所。果たして私にそれが出来るのか。出来なくてもやるしかない。この二人の為に!!!
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