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第6話
「あ、晴翔 …」
「メシ行くのに誘いに来た。薫も居るぞ〜」
『幸人さーん』とインターホンに笑顔で手を振る晴翔の番の薫が映る。
えっとぉ…と幸人 が振り返ると誉 が恐ろしく不機嫌な顔をしていた。
なんでこうなった?
「美味しいー♪」
「幸人、お前料理出来たんだな!」
食事の誘いに来た主任達に「このまま帰すの申し訳ないから」って、家に上げるってどう言う神経してるんだ?
付き合おうって話をしに来てる俺が居るのにだぞ?
「おい杉下、眉間に皺寄ってるぞ」
「すいません」
「す『み』ません、な」
同じ営業部で1課の主任、水嶋 晴翔 は笑いながら幸人さんとおんなじ注意をしやがった。
そんなのは今は大した問題じゃねーだろう。
イライラしているのを誤魔化す様に注がれた麦茶を飲む。
幸人さんは悪くない。
幸人さんはインターホン越しに俺が来てる事と、シチューを作って食べた事をちゃんと水嶋主任に伝えた。
それなのに、この二人は「幸人が作ったのか?!」「シチュー食べたいっ!」と遠慮もクソもない状態で乱入してきた。
「ここで俺以外のαの匂いがするなんて
新鮮だな」
「そんな事言って、実は晴翔くん嫉妬してる
んでしょう?匂いに剣があるよ」
「そりゃ可愛い幼馴染が入社したばかりの後輩を家にあげてりゃ良い気はしないなぁ」
クソッ。
幼馴染がどんだけ偉いんだって言うんだ。
「晴翔!言い方っ。焚き付けないで!
それに…今日は…その…」
「俺が告りに来たんですよ。それに出会いは
入社前です。会社の上下関係は関係無い
です」
幸人さんの言葉を途中で受け取る。
この言い方はお前は関係無いから口を挟むなと勘のいいαなら気付く筈だ。
「……へぇ」
案の定、俺の言葉に水嶋主任がゆっくりこちらを向き、口元だけの笑みを向ける。
伝わったらしい。
伝えるべきは伝える。
俺にとっては今日は大切な日なんだ。
勿論、幸人さんにとってもそうで有って欲しい
と思ってる。
「でね!僕たち付き合う事になったからっ!」
幸人さんが真っ赤になりながら声を上げた。
「ぇ?!」
水嶋主任の番と紹介された男の子?が俺より先に反応する。
幸人さんは綺麗なタイプだが、薫くんと紹介されたこちらはちっこくて可愛らしいタイプの男性Ωだった。
年齢は俺より年下?水嶋主任ヤバイ趣味でもあるんじゃねーか?
「薫くん、驚きすぎっ」
「だって〜、幸人さんが誰かに興味持つなん
むぐぅっ」
思いっきり水嶋主任が番の口を手で塞いでいだ。
俺は幸人さんと話たくて来たんだがなぁとイライラしながらも一応上司に対しての最低限の礼儀は気にかけていた(まぁ、当社比で)。
それでも幸人さんの事を幸人さん以外から今は聞きたくはない。
水嶋主任は俺の事は気に入らないようだったが、口の軽い自分の番に被害が及ばない様にする事を優先順位の上に上げたようだ。
「ははは、実は僕の方から…好きになったん
だ」
「え?そうなの?!凄いっ」
俺と水嶋主任のピリピリとした空気を気にも留めず割って入れるのはこのΩ達 だけだろうな。
…まぁ、幸人とさんよりこの子は天然だな。
それにしても…へぇ、幸人さんちゃんと俺の事好きなんだ。
俺の心がほっこり暖かくなる。気がしただけかもだけど、これも初めての感覚…だな。
ああ、もうコイツら邪魔だな…
水嶋主任の番がビクッと身を震わす。
水嶋主任がチッと舌を鳴らすが知った事か。
睨んでも知らねーよ。
今はお前達の方が空気読めてないんだよ。
ヒュッと喉を鳴らす幸人さんが可愛い。
腕を引き腕の中に閉じ込める。
俺は自分の香りを撒き散らす。番が居ればΩにも然程の影響は出ないが、行儀が良いとも言えない。
ただ、第三者関与の元でも好きと言う言葉を貰えた俺は少しくらい行儀が悪くても許される筈だ。
「主任、俺らさっき初めて意思の疎通が出来た
ばかりなんで、そろそろ遠慮して貰って良い
ですか?」
もう、オブラートに包む言葉はない。
「なぁ…幸人、こんな若造でいいのか?」
「……まぁ?」
「ちょ!何その間?!幸人さんそこは即答するとこですよっ」
こいつだってどう見ても天然Ωを飼ってるじなねーか!
噛み付きそうになった俺の膝に幸人さんが手を置く。
嗜められた事に気付き、グッと我慢する。
「まだ、何にも話せていない所に晴翔が来た
から…悪いけど、晴翔帰って」
「え?」
「僕、この腕から出たく無い」
そう言うと幸人さんはぎゅーっと俺の腕を抱く。
…くっそ可愛い。
「晴翔くん、邪魔しちゃ悪いしもう帰ろ!」
「ぇ?」
スクっと水嶋主任のΩが立ち上がると満面の笑顔を見せた。水嶋主任は戸惑いながらも自分の番に目をやる。
「幸人さんのお手製シチューもご馳走になった
し、僕満足!」
ホラホラと薫が水嶋主任の尻を叩く。
意外と尻に…敷かれて、る?
人は見た目じゃわからないと言うし、水嶋主任の番はヒートを起こしたΩに付いててやれって自分のαに言える度量があると部長から聞いた。
いくら番っていてもΩは捨てられる事もある。
そうなるとΩに待っているのは地獄だ。
番っていなければαなら誰でも交わえばヒートを抑える事が出来るが、番われた、頸を噛まれたΩは噛んだαに体液を注がれないとヒートを抑える事が出来ない。だから、自分のαに他所のΩの匂いがつく事を極端に嫌う。
水嶋主任のΩもああ見えてしっかりしているのかもしれない。
自分が思った事、口出してしまった事の稚拙な態度に頭が痛い。
『若造』と言われても仕方ないなと自笑する。
「はぁ…ごめんね」
誉が胡座をかいていた隣に玄関から戻った幸人が苦笑の色を浮かべドサっと座ると謝って来た。幸人の所為ではないと分かっている。
だからそこを引き摺るつもりは誉にもなかった。
「ね、さっきの続き。
俺の事好き?付き合ってくれますか?」
「僕にどうしても言わせたいの?」
呆れた様に言う幸人の頬はほんのり赤い。
色が白い分すぐ顔に出てしまうのだろう。
人に言うついでの告白で満足しろと?
だったら俺、水嶋主任に幸人のいる前で幸人さんが好きですって毎日言いますよ
と、子供の様に駄々をこねる様な事を言う誉を可愛く思ってしまう。自分に執着を見せる誉が愛おしく、欲しいとさえ思う。
現に今幸人は腹の奥が疼くのを感じてた。
「…僕、人と付き合った事ないよ?
付き合い方も分からないし、それでも…
いいの?」
「俺も付き合った事は無いから大丈夫…チュッ」
リップ音だけのキスを瞼に落とすと自慢げにニカッと笑う。αに多いイヤな笑い方では無かった。
「このイケメンα」
幸人は照れ隠しの様に悪態を突く。
「これからは幸人だけだから」
「『幸人さん』」
「…さん」
「会社で付き合ってるのバレたら、困るから…」
「どうして?」
「配属されて一週間で先輩と付き合う事に
なったなんて知れたら、誉くんの評価が
落ちるだけだよ。僕はそんな事になったら
自分が許せない。」
誉の口が開く前に幸人は言いたい事を言い切った。
それにより誉が口を閉じ、幸人は安堵した。
「ねぇ、僕たちがちゃんと番えたら…ちゃんと
会社にも報告しようよ」
そんなの簡単だろ!と言いかけて言葉を飲み込む。
番うだけなら発情期 の際に幸人の頸を噛めば良いだけの話だ。
そんな事が頭を掠めた誉は、自分に激しく嫌悪を感じた。
番う行為は簡単だ。
Ωの中には事故 で番わされる例も少なくはない。
一度番えばそのΩの人生を大きく左右する事になる。
αはそんな事を考えないでヒートを起こしたΩを欲望のまま犯し、本能で噛み付き、無責任に捨てるのだ。
αは好きなだけ番える…でも、Ωがいなけれはαは生まれないのに、Ωを蔑ろにする父親が許せなくて家を飛び出しま自分は、今一瞬でも欲望のまま番いたいと思ってしまった。
こんなだから…
だからこそ、Ωは首輪を付けて身を守らなくつてはいけないんだ。
まとまらない感情
結局今も常識を羅列しているに過ぎない。
本気になれるΩがいなかったからそんな事を言えただけじゃないか。
しかも、一夜限りの関係もザラだった…。
誉はグルグルと考えてあぐねえていた。
今の自分は矛盾だらけだ。
最愛の人の人生を背負う覚悟は自分は本当に出来ているのか?
幸せに出来るのか?
本能に近い勢いでここまで来た誉は初めて自分のエゴが優先されていたのではないかと考えた。
『運命の番』だから?
本当に運命の一言で片付けて良いのだろうか?
今まで生きて来て初めて持った疑問。
家を飛び出した時だって自分は間違ってないと胸を張って言えた。
でも、家を飛び出したところで貯金は全て元を辿れば親の金だ。
大学だってその金で行った。
沸き起こる色んな矛盾を自分の中で正当化して来ただけだ。
黙っている誉が機嫌を損ねていると思った幸人はその腕にそっと手を置き誉を見上げる。
「どうせバレるし言い難いことは先に言っとく
けど、僕…ずっと…晴翔に抱かれてた。初め
ても晴翔」
知ってる。そんな気はした。
ただ、初めてもと聞くとかなりキツイ。
誰が初めてだろうが気にする様な誉では無かったが、あの水嶋晴翔だけはいけすかないと思った。
自分の番を待っても尚、幸人に近寄るαを誉は本能的に拒絶していた。
「俺の初めても聞きたいの?その年でバージン
だとは思ってないよ。馴れ馴れしい理由も
分かった。女じゃ無いし、過去なんか気に
してないよ。…ねぇ、幸人さん。俺、独占欲
結構強いからこれからの浮気は一切許さない
よ」
言葉にする事でそう思い込もうと誉は努める。
でも、何より誉は幸人と歩む『これから』を大切にしたいと心から思う。
そう思える自分は好きになれそうだと思う。
幸人を抱きしめ直し、頭に頬を擦り付ける。
そして向き合う様に膝の上に乗せると目を瞑り、キスを強請る。
幸人は戸惑い、自分たちの他に誰も居ない部屋をキョロキョロと落ち着かない様子を見渡したが、意を決してチョンと誉の少し厚めのセクシーな下唇にキスをする。
ぷははははっ
可愛い…本当に可愛い。
笑い声を上げ誉はぎゅーっと幸人を抱きしめた。
「幸人さん、不束な俺ですがよろしくお願い
します。
きっと、俺無意識に幸人さんを困らせたり
傷付けてしまう事が有るかもだけど、その時
は絶対言って」
幸人も頬は赤らめたままだったが真剣な表情で誉に向き合う。
「僕もきっと足りないとこだらけだよ。
でも、2人で幸せになれる努力が出来るなら
僕は君と番たい…あ、若い君に重い話だね」
先走ってしまった自分を恥じる様に俯くが、その表情は全て誉に見えてしまっている。
「あ…」
ピクンと硬いものが尻に当たり、幸人は素知らぬ顔をしていたがなんでココで勃ってるの?!と戸惑っていた。
「すみません…。
俺、自分がこんなにヘタレだと思いません
でした」
幸せに出来るが一瞬でも不安に思った自分と
一緒に幸せになる努力をして行こうと考えてくれている愛しい人。
俺の運命の番は俺の運命を動かす人だ。
運命だから離れられないじゃない。
ただ、その強さに惹かれるんだ。
誉には幸人が眩しく見えた。
「大丈夫!男は30からだよ」
「プッ…なるほど。まだまだひよっこですね」
「そうだよ。だか、焦らなくていいんだ」
ふふふんと自慢げに笑う幸人が可愛い。
自分の反応してしまったナニにはもう気付いて居る事だろう。
幸人の言葉が嬉しくて反応してしまった。
こんな簡単に勃つ幸人では無かったが、研修からこっち自分で時々抜くことは有っても、人肌は久しぶりだった。
コスコスと腰を揺らすと「ぁっ」とか細い声を上げて幸人がしがみついて来た。
『可愛い』その耳にそっと囁く。
そんな事を誰かに行った記憶は残っていない。
愛おしい
「誉…くん…、それ…んっ」
幸人が尻に当たる刺激に悶える。
幸人の上は未だ誉のパジャマだ。下は大きすぎて裾を踏んでしまうので自分のスエット履いていた。上は脱ぎたく無いから…そのままだった。
普通に考えたら、上に誉のパジャマを着ている時点でただならぬ関係と分かってしまう。
今思えば、晴翔の機嫌の悪さも薫のテンションの高さも納得出来る。
「ね、少しだけ…距離を縮めていいですか?」
男の色香を含んだその声に額を肩に擦り付けながら頷くしかない幸人だった。
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ご挨拶
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こんにちは!
お立ち寄り頂き有難うございます!
反応とかもホント嬉しいです(*n´ω`n*)
そして、すいません。
誤字脱字加筆がかなり頻繁に起こっておりますorz
たまに戻って見て頂きますと説明が増えてる事もありますので宝探し的な感覚で(ry)
はい、ダメなヤツですねorz
そろそろエチエチ突入かと思います。
と言うかなんパターンか書いております。
幸人は他人に興味が持てないΩ
誉は理屈屋で子供
晴翔は過去に縛られ運命の番に会うも初恋が
吹っ切れないある意味無神経男
薫はとばっちりを受けるも晴翔に一途な常識人。←実は18歳で高校卒業と同時に番になったので、こちら本当に同棲始めたばかりのカップルです(*´艸`*)
元々巣作りの話が書きたいだけの短編でした。
Ωの巣作りが大好きなのでw
ただ、運命の番って何だろう?って抗えないものなの?って気持ちもありながら書き始めたのでスタンダードなオメガバースとはかけ離れているかもしれなし、観点が違うかもしれませんが、暖かい目で見て頂ければ幸いですΣ(ノ∀`*)
では、長々と失礼致しました。
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