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第8話

後孔に触れてから幸人(ゆきと)の反応が鈍い…ピクンと震えはするものの、むしろ感じていると言うより不安げだ。 晴翔(はると)との関係は本当にヒートの時だけで、プレイでは無く本能の交わりなので、今まで前戯を意識する余裕など幸人には無かった。 そして同時に幸人は(ほまれ)を前にどうしても脳裏を掠める晴翔の存在に困惑していた。 「あ、あの、ごめんね…気持ちいいけど、緊張しちゃってるみたいで…」 「気にしなくていい。俺が性急すぎただけだし…なぁ、少しだけ試させて?」 「……?」 何をするのか怖くて、すぐに返事が出せない。 「大丈夫、優しくする」 そう言って(ほまれ)は瞼にキスを落とす。 「水嶋主任の事は忘れて下さいとは言わない。  そこは諦める!だけど、今は俺を楽しんで?  俺で感じて?大丈夫。俺、下手じゃない  から」 「ぷっ…」 誉の何処かのDr.の様な自慢気な顔に幸人は笑ってしまう。 そして愛おしく思う。 「本能で僕は君を好きみたい」 「…反則過ぎる。…優しく出来ないかも」 「ぇ?…っ、ちょっ!?」 誉に掴まされたそこは硬く熱く脈打つのがわかる。 「擦って…。なぁ、もっと俺に甘えて?」 誉の声に身を震わす。 誉の香りと声に幸人の脳は侵され始める。 鼻腔を擽る甘い香り。実際は甘いわけでもないだろうが、幸人には砂糖菓子の様に甘い香りに思えた。 いつの間にか全てを剥がされ、首輪の隙間を舐められる。 風呂に入ったから汗臭くは無いだろうけど…誰にも触らせないそこを貪欲に求められるのは心の底から欲されている様で堪らなかった。 「なぁ、首輪(コレ)なんのつもり?」 「ぇ?」 「──外して?」 誉の瞳は笑ってない。欲のみでどこまでも幸人を欲している。 発情期でないので噛まれても番にはならない。 でも、Ωが首輪を付けるのはマナーでありエチケットだ。 なのに目の前のαは既に番ヅラ…独占欲なのか支配欲なのか…。 「なぁ、俺に首…差し出せよ」 傲慢な言い草に肩を掴み引き剥がす。 キッと睨み付ける幸人の瞳に写るのは、余裕なく本能を押し殺そうと震えるαの姿だった。 お預けの我慢が効かないのか緩んだ腕にまた自分に縋る様に抱きついてくる誉が愛おしくて笑ってしまう。 「ねぇ。(うなじ)を差し出したら…君は僕に何を  くれるの?」 「未来」 幸人は目を見開く。 飾り気のないシンプルなアンサー。 αと言えども入社したての小童に負ける気などサラサラない。 『安定』と返されたらきっと自分はコレ(首輪)を外す気にはなれなかっただろう。 幸人は起き上がる為に誉を押し返す。 不満気で不安気な誉に微笑を返す。 その微笑みは柔らかく慈愛深く、綺麗だった。 誉は黙り込みベッドに胡座をかく。 幸人は自分の首輪に触れて登録した順の指紋認証を解除していく。 カチッ とてもとても小さい音が、とてもとても大きな音に感じた。 「誉くんの未来、僕にちょうだい」 首輪が幸人の手から滑り落ちるのを見守り、自分の腕に幸人が舞い降りるのをただ受け止めた。 誉の目の前に真っ白な美しい頸が晒されている。 誉がごくりと喉を鳴らすのがわかり、幸人にこくりと頷き答える。 ああ…僕は自らこの濁流に飛び込む。 今まで感じた事のない高揚感に全身を絡め取られていく──。 「はっ、ん…あっあっ、ゃあっ」 誉くんは僕の首筋を思うがままに舐め上げ吸い付き、満足そうに僕の唇にチュッと口付けするとその唇をおろしてその舌で乳輪をなぞる。 「んっ…んっ」 「あー、乳首おっきしてるね。しかも舐めごたえがある…やらしいな」 「やっ、恥ずかしい…からっ、あぁっ も…」 「だーめ、イカせない」 「ひゃんっ」 もう、ずっとぼくのおちんちんは誉君から与えられる刺激に耐え、涙を流していた。 もう少し、もう少しで解放されるのに…なんで… 「俺の入れてからしかイカせない。  後ろの刺激だけでもイケるよな?  もう、俺のなんだから俺に愛されてイッて  よ」 そ、その言い方ズルいよっ なんでそんな甘えた感出すの?! 嫌って言えないじゃないか! 「なぁ…おねだりして?上手におねだりして  下さいよ」 ひ、卑怯だ! その上目遣い反則!! 僕は誉くんの下でうつ伏せる。 お尻を突き出す様に這う。 「ねぇ、お願い…こんな風に欲しいの、初めて  なんだ。…だから、もう…ちょうだい?」 片手で尻ベタを掴み広げる 全身が血が湧く様に熱くなる。 恥ずかしい…。 早く…何か、言って。お願い…。 「ひゃっ」 背中から尾骶骨に手を這わされた。 「ん、良い声」 誉くんの顔が見たくて姿勢を崩すとペチンとお尻を叩かれた。 「ダメ。俺を受け入れるまでそのままでいて  下さい」 ──僕は不安になりながらももう一度腰を、お尻高く差し出す。 僕の全てを差し出すように。 温められたローションを絡めた指が後孔の輪郭をなぞる様に這う。 「綺麗な縦割れだな」 そう言う事言わないで欲しい…。 「あ…」 中に入るかと思った指は中に入る事なく未だそこをなぞり、シワを伸ばし広げる。 ヒートでない僕のこそは己で濡れる事も出来ずローションを足される。一瞬ひやっとして腰を引いてしまうと又尻ベタを打たれた。 音の割に痛くはない。でも、小さい子のようにお尻を叩かれる事に羞恥心を刺激され陶酔しそうになる。 「あ、あのね。僕、他人に執着出来なくて  ねっ」 「…このタイミングでそれを言う意図は?」 呆れた様子で言われ、流石にそうだよね…と動揺するものの、僕にとっては大切な事だからどうしても伝えておきたかった。 「意図なんてっ…ただ、話しておかないとと思ったからっ」 「…わかりました」 諦めた様にため息をつく。 嫌われてしまわないかと不安が過ぎる。 「じゃあ、俺は続けますので、幸人さんは  そのまま話して下さい」 え?…どういう? 「正直、俺そろそろ限界であなたの中に入って  温まりたいんですよ。入れるのは我慢する  ので、解させて」 なんか…嬉しいような、寂しいような…複雑な感覚に僕は戸惑う。 「俺にもたれて。そう、良い子。これなら  お互いの体温を感じるし解せるね…チュ」 僕は体を引き上げられ、胡座をかいた誉くんに寄り掛かる様に背を預け足を開かされ、誉くんの膝に脚をかけさせられる形になる こ、この態勢は── 「ね、ねぇ。これ、すごく恥ずかしい…よっ」 「ダメ。譲るのはここまで」 こ、これって譲ってくれてるのかな? 譲ってくれてる内に入るの?! 僕は目の前でローションを温めている誉くんの様子をまざまざと見させられる事になりその手が僕の胸の突起や半身、そして後孔に這うところまでバッチリ見る羽目になってしまった。 「指、中に入れる前に話した方がいいですよ」 「あ、うん。あのね…だから、その…ぼくは  今まで晴翔がいれば充分で、ん…依存して  いたんだ…く、と思う、ひゃぁ」 胸の突起を根元から摘み上げられた。 「俺の膝の上で他の男の話するのかよ?」 俺の庇護欲と独占欲、ついでに支配欲も煽られてるのかなぁ?と誉くんは悪魔が居たらきっとこんな感じじゃないかと思うくらい低い声で僕の耳元で囁いた。 勿論僕の薄い胸を大きな両手で揉みしだき、摘みあげる事も忘れない。 引き上げられ、背中を反る様に胸を突き出す形になるとそのままズルッと頭がずり落ち誉くんの顔が見えた。 その顔は怒っている様でもあり、辛そうでもあった。 そんな誉の腕になんとか自分の腕を回しながら、自分の一言一句にこんな風に反応してくれる彼に愛おしさが心を擽り僕は抱きしめた腕をぎゅ〜と抱きしめ口付けをする。 「お願い、聞いて。  晴翔の話はこれが最初で最後だから」 誉くんは僕の脇から引き上げ再度自分の膝に乗せると今度は無理矢理脚を開かせる事は無く、その代わり首筋を舐め上げ甘噛みを繰り返してきた。 僕は彼が承諾してくれたと認識し、言葉を紡ぐ。 「ヒートを抑えるだけなら晴翔が居れば充分  だと思ったんだ」 誉くんは黙って甘噛みを続ける。 「そしたらね、晴翔には薫くんが現れたの。  10歳も違うんだよ。それなのに運命の番  だって直ぐに分かったって、興奮して僕に  話して来たの。『は?高校生?!それって  犯罪じゃない?』ってツッコミ入れちゃった  よ。  でも、運命の番と出会っても晴翔は僕を抱き  続けてくれてね…  何も変わらない日常だったんだよ。薫くんに  会うまでは」 …… 感情が昂ぶりそうになる。 誉くんは僕の耳裏に優しく口付けをくれる。 ゆっくりで良いから、ちゃんと聞くからって言ってもらえてる様に思えて 僕の中にあった深い悲壮感を癒やしてくれる。 「晴翔は恋人と番うにあたって、薫くんに  最低限の条件としてヒート期間だけ僕を  抱くのを許して貰う約束が出来たから安心  しろって言ったんだ。  だから高校生卒業したら番う事にしたよ  って。  僕は単純に『そうなんだ』って思ったよ」 耳裏への口付けも耳を啄むキスも止まる。 「僕って酷い人間でしょ?番の居る晴翔に  抱かれる事に何の疑いも抱かなかったん  だよ?」 誉くんの表情が分からない…、呆れられてそうで怖い。もしかしたらなんてヤツだって嫌われたかもしれない。 でも、僕は全てを話すって決めたんだ。 とにかく話しきろうと一気に全てを語った。 「でも、薫くんの卒業式に花束持って晴翔が  いくから着いて来いよって言われてのこのこ  着いて行ったよね。  で、どうなったか分かる?  門から出て来た薫くんは晴翔を見つけて凄く  幸せそうに駆け寄って花束を受け取って  晴翔に抱きしめられて、その腕の中で僕と  目があって…気付いたんだよね。  晴翔の腕に抱かれたまま、絶望の表情を  見せてたよ。  折角の新しい門出の日なのに、僕も晴翔も  人の気持ちを考えず、良く営業職なんて出来  てるよね。  僕は晴翔の言葉を鵜呑みにしたし、晴翔は  自分が善とする事に番が否定的になるとは  思わなかったんだよねぇ」 僕はあの日の薫くんの顔を忘れない。 忘れる事なんて出来るわけない…。 まだ、高校を卒業したばかりの子が、最愛の人に、これから一緒に歩む人に自分の愛人の様な存在を見せられたんだ。 しかも、自分の門出で、自分たちの新たなスタートだと思っていた日に…。 晴翔にその表情は見せず、僕が垣間見た一瞬の表情以外は僕が帰るまで笑顔で接してくれた薫くんを僕は尊敬したよ。 「仕方ないから挨拶したけど、晴翔の頭、  叩いたよ。  で、謝った。  君らが番ったら僕は2人の邪魔なる様な事は  しないよって、ちゃんとね。  晴翔は慌てたけど、僕ら付き合っても居ない  関係だから、本当に3ヶ月に一度のヒートの  時しか関係も持って無かったし、僕も空気は  読める方だから…」 あまりの静かさに僕は振り返る 「…何?そのもの言いたげな表情は」 ムニッと誉くんの精悍な頬を摘む。 そのまま眉を顰めた誉くんの頬をむにむにと軽く引っ張りその感触を楽しむ。 僕は誉くんに跨る様に正面から抱きつき一度ぎゅ〜っと抱きしめた。 その硬いけど厚い胸に抱きつくと落ち着けた。 「晴翔が気にしなくて良いから今までのままで  いようって言うんだ。  その時、晴翔には後ろに立つ薫くんの表情は  分からなかったと思う。  でもね、『発情期(ヒート)が重なったらどう  するの?』って聞いたんだ。僕は来てもくれ  ない人を待ちたくないよって言って、ただの  幼馴染に戻ろうって薫くんの前で晴翔に  伝えて、薫くん()には友達になろうって  言ったんだ」 で、薫くんとは今に至る…なの。と僕は笑った。 うまく笑えた、かな…。 「よく出来た高校生だな…」 ここで、初めて誉くんが感想めいた事を口にした。 「うん、泣く事も恨み言を言われる事も  なかったよ。気になって念の為に後日2人で  会ってみたけど、本当に晴翔には勿体ない  良い子だった」 この間みたいに結局晴翔の手は借りないといけないんだから、一番ダメダメなのは僕なんだけどね。 僕は自嘲気味に話終えた。 誉くんは何も言わず僕に軽くキスをしてくれた。 僕はそれで漸く肩の力が抜けたのを感じた。 誉くんがここに来てくれてからずっと感じていた背負っていた重荷を下ろせた気がした──

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