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第9話
その後…ふらっと香りに誘われて入ったあの店で君に出会ったんだ。
花が咲く様に笑う幸人の表情はとても甘く、誉の下半身を直撃した。
お預け食らった挙句、決して気分の良い内容ではない話に萎えに萎えた息子は正直!
昭和生まれ的表現がピッタリな下半身に誉は苦笑してしまう。
「なぁ、俺のも聞きたい?」
幸人は躊躇なく頷く。
冗談のつもりで言った誉はマジかぁと頭を掻いたが、幸人のまっすぐな瞳に「はぁ…」と一つため息をつき諦めた様に話始めた。
まぁ、起きた息子を寝かさないために、その手は幸人の滑らかな脇腹や胸を撫で上げ楽しむ。
「俺のも気分の良い話じゃないですよ。
俺はΩに人権をとか言いながら結局Ωが
自分に肉欲をぶつけてくるのに耐えられ
なくてΩと付き合う事はなく、結局付き
合うのはβの女ばかりで、女と違って
ヤリモクのΩの雄とは一度限りと割り
切った関係ばかりだった」
腕の中の幸人がピクッと反応する。
『雄』という表現が引っ掛かったのかもしれない。
それでも、女は冷たくすれば寄っても来なくなるが男は被虐者だと纏わりついて来る事が多く、誉も性の発散には丈夫なガタイの男の方が都合が良かった。
ただ、あんなのは本当にお互いに欲望を吐くだけの獣の交尾と同じにしか思えなかった。
寧ろ、獣の交尾の方が目的が純粋だとさえ思える。
まぁ、ぶっちゃけ話なら気にする事はないだろう。
反応してしまっている半身をズボン越しに幸人の剥き出しの尻に当てる様に抱えて直すとそのままゆらゆら揺れる様にあて構う。
誉の話に少し口を結んで何か言いたげにしていた幸人の頬が戸惑い朱に染まる。
うん、それで良い───
「幸人さん、俺ね。
もう幸人さんだけにするから。
結婚も幸人さんとする。幸人さん以外とは
番わないし、普通の嫁も娶らない。
SEXもしない。だから、安心して下さい」
幸人さんはパチクリしてる。
俺の渾身の告白に対する反応にしては反応が違くないか?
俺たちはもうこれからだけを見れば良いんじゃないかと思ったから。
過去の話なんてもうどうでも良い。
「番うのって奥さんになるって事じゃないの?」
誉がやや不満気に幸人を覗きこむと幸人はキョトンとした顔をして聞き返して来た。
?
誉はピントが外れた幸人の問いに一瞬戸惑ったが、ああ…と納得した。
「幸人さんの親御さんは───」
「あ、2人ともβで婆ちゃんがαだった。
爺ちゃんがΩのだったけど──…母さんは
婆ちゃんが産んだ子」
つまり、一般家庭だなと誉は理解した。
「水嶋主任の所は代々政界のお偉いさんですよね?」
「そそ、でも晴翔の親は警視庁官で、
お兄さんが政治家さんだけどね」
「そうか、それなら…幸人さんを愛人に
囲おうと思った訳じゃないのか…」
「???」
「世襲のうちみたいな家柄は、Ωを何人も
囲うんですよ。
より多くの優秀なαを産ませる為に…。
俺は本妻の子だけど、兄弟は上に兄が1人、
下に妹と弟が1人ずついる。皆んな腹違い」
幸人はキレイな眉間にシワを寄せていた。
チュッとその眉間にキスをする。
「財閥の家なんて未だそんな感じですよ。
俺兄弟、皆腹違いだけど仲は悪くなくて
小さい頃は兄にもよく遊んで貰った。
だから…兄貴がいくら努力していても俺の
為ともっと努力しろと言う親父が、αの
兄弟がこんなにいるのに、まだΩを囲う
親父の気持ちも分からないし、Ωを子供を
産む道具だとか、Ωは黙って足を開いて
いれば良いみたいな態度とか見ててなんか
すごく嫌で、汚く思ったんだ…」
「αに媚びて足を開くΩにじゃなくて?」
「は?Ωはαの被害者だろ?
汚いのはαだ」
誉はちゅうっと幸人の肩口にキスを落とし、赤く染まる肌を見るとまたそこを舐め上げながら話を続ける
「俺の母親は、そんな親父でも愛していたから
仕方がないと分かっていても割り切れない
所もあって、泣くことも多かったらしくて
祖母に杉下家の嫁がそんなんでどうするって
弄られて精神的に患って入院した。
お袋はαだ。αなのにαの俺を産んだ。
それなのにその後もΩを囲い続ける親父が
理解出来なかったんだ。
プライドを相当傷付けられたんだろうな」
『誉』と言う名から見ても、どれほど誉が
両親の期待と愛情を背負っているかが垣間見られる。
「──て、はは…なんで、幸人さんが
そんな泣きそうな顔してんの?同情した?
それとも自分も同じになるのかって怖く
なっちゃった?……俺と番うの嫌に──痛ッ」
幸人が誉の頬を挟むように両手でペチンとビンタした。
ただ、叩かれた誉以上に傷付いた表情の幸人は誉を睨む。
そんな顔するなよ…
誉は幸人を抱きしめる。
「ごめん、今のはガキっぽかった」
抱きしめられながら幸人は誉を包み込むつもりでその肩に頬を寄せ返していた。
「僕は君に期待してないよ…誤解しないで」
仕草は甘いが幸人の言い様に誉は面を喰らう。
「αの君に期待していないだけの事だから。
入社したばかりのペーペーに僕は負けないよ。
僕は確かに君のα性に惹かれた運命の番
だけど、人生経験は僕の方が上だし、
何より僕は君をもっと深く知っていきたい。
切っ掛けはどうあれ、『杉下誉』自身を
もっと知って、まだまだこれから愛しい
気持ちを増やして行きたいと思ってる」
幸人は肩に寄せていた頬を上げ、誉をしっかり
見つめて言う
「僕は流されて首輪を外した訳じゃないよ。
君とだからこれから未来 を共にしたいと
思ったんだ…」
誉は自分の頬を伝う涙に気付く。
その言葉に心が温かくなるのを感じたからだ
とても暖かい温もりだった。
まだまだ二人は知らない事だらけだ。
お互いの事を少し知っただけでこんなも心が揺さぶられる。
今まで他者に対してあんなに無頓着だった自分達が、目の前の男の事になるとこんなにも愛おしく思ったり、切なくなったりするなんて…
幸人は思った
誉はずっと愛情に飢えていたのかもしれないと…。
誉の涙をそっと拭う。
だから、自分 を試す様な表現や態度をとる。
色んな人と肌を重ねながらも自分の唯一をずっと探していたのかもしれない。
他人との距離感が分からない自分に、この男はぴったりだ。
寧ろ、会うべきして出逢ったのかも…これが運命なのか…長い長い前置きを経て、お互いの熱をじんわりと感じれた気がした。
そして、この熱は冷めることがない。
幸人は自分のαの首筋にキスを落とした。
それはまるで何かの誓いの儀式の様にそっとそっと、とても優しい口付けだった。
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