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嫁入り12
けれど、なんと説明すればよいのか分からない。
王族であれば理解できる理屈があるのだろうか。
もう一人いた男が暴虐王に耳打ちをした。
それからレオニードをちらりと見る。
それで、ああ、自分のことを説明したのだと分かる。
レオニードが元々王族でないという事くらい、調べていないはずが無いのだ。
王族として育てられず平民として生きてきた人間。それを知られている。
この男は世の中で相当な恨みを買っているはずだ、まずい人間を近づけるはずが無い。彼に近づくあらゆる人間は調べられている。
軍ですら経歴調査があったのだ。
軍人として働いていた事はある。自分の懐に入れる人間の情報を調べつくす事が常識なのは身にしみている。
経歴をさかのぼりにくいようにすらしていないのだろう。送り出されたときのあのあわただしさとやる気の無さを考えると、そうだろうなとレオニードは考えた。
「民が、国のために供物にされたということか。」
暴虐王はまるで独り言の様に言う。
「供物になるつもりは無い。」
「けれど、弱い国の責任を自分で取ろうと、この国に来たことは変わりないだろう?」
「俺が責任を取らなければならないのはこの命とたった一人の側仕えだけだ。」
レオニードは弱いという部分にも何も感じなかった訳ではない。けれど、それよりも馬鹿馬鹿しい自国の見栄のために送り込まれた事を責任とは思いたくなかった。
「へえ。」
暴虐王の言葉遣いが先ほどのように一瞬崩れる。
何が彼の琴線に触れたのかは分からなかった。
「じゃあ、我が国がそなたに帝王学を授けよう。」
「は?」
思わずレオニードは声を出してしまった。
どこをどうするとそうなるのかレオニードには理解できなかった。
「そんな事大丈夫なのか?」
「国内の些事に、いちいち誰かの許可を求める様なことを必要とすると思っているのか?」
「はあ……。」
軍にいたころレオニードにとって上官は絶対だった。それと同じ理屈の上位版なのだろう。
皇帝というのは多分そういうもの。そう思うしかない。
少なくともこの人は世界のかなりの部分を自分のものとしているのだ。人一人に何かを教えるくらい造作も無い。
「朕は皇帝なりとでも言うと思ったか?」
「なんじゃそりゃ。
いや、今の方が少なくとも好感が持てる。」
暴虐王は一瞬目を見開くとそれから目を細めて「そうか。」とだけ言った。
レオニードは、つい同僚に話しかける様な話し方になってしまっている事には、禄に気がついてもいなかった。
軍にいた時もそんな事は一度も無かった。それなのに、まるで心を許した友人のように暴虐王に話しかけてしまったのを、居室まで送られた後、ようやく気がついたのだ。
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