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名前6

「約束しただろう。」 入っているものは恐らく菓子だろう。 渡されたものは花のような透かし彫りがしてある綺麗な紙に包まれている。 上流階級のための店で準備された一品だということが一目でわかる。 それが二つ、手渡される。 「ありがとうございます。」 中身を確認はしていないが、きっとユーリィは喜んでくれるだろう。 そう思って受け取ると「白い箱はレオニード。君自身に。」と言われる。 「普段から、甘いものはほとんどとっていないだろう。」 だから、こっちは伴侶殿にと言いながら劉祜が笑みを深める。 何故わざわざそれを確認して、プレゼントを贈られるのかがレオニードには分からなかった。 「開けてみてもよろしいでしょうか?」 レオニードが聞くと劉祜は勿論と頷く。 薄い紙を破ると中に入っていたのは美しい装飾のされた短刀だった。 彫られている意匠が花だということだけはかろうじてレオニードにも分かる。 けれど、いくら小ぶりとはいえ剣を贈られる意味がこの国にあるのか、レオニードには分からない。 「これは?」 おずおずと尋ねるレオニードに、劉祜は軽い調子で「剣技の褒美として、丁度良いだろう。」と言った。 それから「我が故国では、嫁入りの際に短刀を持ってくる風習がある。」と付け加えた。 「結婚式は挙げないだろうから、せめてもの贈り物だ。」 嫁入り道具なのであれば夫から贈られること自体一般的ではないのだろう。 「まあ、式は正式な皇妃のためにとっておいてください。」 レオニードが言うと、劉祜はきょとんとした顔でこちらを見た。 まるで伴侶と寄り添うことを想定していない人間の反応にレオニードは思えた。 その表情があまりにも暴虐王のイメージと違っていて思わずレオニードは笑ってしまった。

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