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月明り1

この国は元々、音楽や踊りの文化がさかんで、観光地として栄えていたらしい。 それに絹織物が有名で、多くの女性が出稼ぎで王都に集まっていた。 だから、菓子も見た目が美しく美味しいものが多い。 レオニードが受け取った砂糖菓子もそうやって発展してきたものの一つだ。 小さな国は穏やかな弱国だった。 少なくとも彼が王位につくまでは。 “暴虐王”は王位についたときから暴虐王だった。 そう言われている。 父である先代の王とそれから、兄弟を数人殺して暴虐王は王位を得た。 何故殺したのか、本当に殺したのか、公式な文書からは記述を見つけることはできなかった。 まことしやかに流れる母が死んでからということもよくわからない。 兄である王を殺したという話も聞いたことがある。 少なくとも弑逆の王に近い扱いを彼は受けているのだろう。 何故、劉祜がそんなことをしたのかは分からない。 彼の国は、レオニードから見た彼の気風に似ていた様に思えた。 いや、逆なのだろう。劉祜の気風は元々あった小さな国に似ている。 彼はどうして、暴虐王となることを選択したのか。もしくは選択させられたのか。 そう考えてレオニードは思わず口角を上げてしまう。 選択させられたと思う位には劉祜に入れ込んでいて、自分自身でも驚く。 戯れにあの皇帝が答えてくれるだろうか。 ありえない。 そう思った。その時の事を知っている誰かに聞くか、腹心となるか。 その二つしか無いであろうことは分かり切っていた。 別にレオニードは劉祜についての新しい噂を知りたい訳ではなかった。

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