34 / 124

月明り2

◆ きっかけは美しい桃の花が今見ごろだと、劉祜が付けた奉公人に言われことだったとレオニードは記憶している。 ユーリィが「きっと綺麗なんでしょうね。」と言ったから、という訳ではない。 勉強も楽しいし、鍛錬の時間がじっくり取れることもありがたい。 かなり配慮されている生活をおくっていることも、レオニード自身よく分かっている。 事実こうやって、何人もの奉公人を劉祜はレオニードにつけてくれている。 しかも妃のために用意されているであろう広い区画にいるのは現在、レオニード一人きりだ。 「酷い皇帝に追い返されたと聞いたら、誰でも納得するさ。」 劉祜は笑っていた。 何故笑うのか、レオニードにはわからなかった。 独りぼっちな自分を劉祜が自嘲しているように見えてしまったからかもしれない。 実際、こんなにも人好きのする笑顔でいる劉祜が宮廷内で“暴虐王”として本当に振舞えているのかさえ怪しく見えてしまう。 元来、高貴な者は桃を愛でるという。 それは皇帝の妾妃であっても同じことであろう。 茶会を開くということは嗜みであり、それほど珍しいことではない。 それであれば、ユーリィの為に花を愛でるのも悪くないと思った。

ともだちにシェアしよう!