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月明り3

ユーリィは花が好きらしい。 そういうタイプの人間は軍にはいなかった様に思えて、レオニードには新鮮だった。 他の新しい奉公人たちは、「ようやく貴族らしいことに興味を持たれた。」と喜んでいる様だった。 この国の貴族らしいことも、この国以外の貴族らしいこともレオニードが好きになれることは剣術位だった。けれど、一部の国では武も貴族たるための素養とはされているがそこまで重視はされていない場合が多い。 いわゆる貴族の嗜みというやつがどれほどの意味があるのかはレオニードには分からないけれど、それを必要とされていることは理解できる。 桃の木の下で茶を振舞い、詩を詠む。 誰か客人を招くこともあるらしいが、最初からそれをやって粗相があると事だ。 その位はレオニード自身も使用人たちも分かっている。 貴族として必要なことは内輪だけでごく小さな茶会を開き、必要であればそのことを噂で流す。 |政《まつりごと》をレオニードがするつもりは無いから噂も必要はない。 菓子は、茶器はと慌ただしいながらも動き回っている奉公人たちを見ながら、紙に向う。 こういうものはしきたりが大切なのだ。 高貴な人間は手紙でのやり取りを好むらしい。王族の中にはあえて侍女に自分の名で手紙を書かせる習慣もあるらしい。 劉祜にお茶会を行う許可を得るための手紙を書く。 レオニードが軍にいた頃の物資なり増援なりの嘆願書も迂遠な表現があった。それは自分達が責任を負わないためのもので、きっと多分これも同じようなものなのだろう。 同じ場所にいるのだからと会いにいって声をかける訳にもいかないこと位もう知っていた。 美しい紙にしたためる言葉は、レオニードの母国語だ。 これを劉祜は通訳無しで読むということだ。 暴虐王の名に合わぬ博識だと思う。 普段交わす言葉もほとんどがレオニードの母国語だ。 この手紙でのやり取りを面倒だとはあまり思わなくなったのは、相手が劉祜だからだろうか。 美しい紙に香の匂いをつけることも、特別であろう漆黒の炭を使うことも、今までのレオニードの生活から考えればひどく周りくどいことをしている感覚はあるけれど、彼とする手紙のやり取りはあまり苦ではなかった。

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