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花見4

姫君としての教育を受けたことは、生れてこの方無い。 そもそも、貴族としての素養が無いのだからどうしようも無い。 こんな時にどんな踊りをしたらいいのかは分からない。 剣舞を見せるのが筋なのかもしれないけれど、この場で武器を持ち出すリスクもそれを尋ねることの無粋さについても判断できない。 『綺麗なもんだろ?』 記憶の中の母がこちらを見て笑う。 他に踊りと呼べるようなものは、レオニードは知らなかった。 「私の故郷の踊りでよろしければ。」 拙いものではありますがと言いながらレオニードは立ち上がる。 今日の恰好がひらひらしたこの国の文化に近いもので良かった。 少しは粗を隠してくれるだろう。 ゆとりのある袖も腰回りを覆う様なひらひらとした布も、着替える時にはなんだこれはと思ったけれど、今はむしろありがたい。 この将軍が自分の踊りを気に入るか否かは分からない。 けれど、無下に断ったという事実が付きまとわなければそれでいい気がした。 ああ、多分あの時母は唄っていた気がする。 思い出した旋律を口ずさむ。 この国の物とは少し違う音色がレオニードは好きだった。 あまり思い出のない母の面影をレオニードは少しずつ思い出した。

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