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花見5
リズムは体が覚えていた。
半ば夢中にレオニードは踊っていた。
思い出の中の母に記憶を重ね体を動かす。
最近は母のことをほとんど思い出すことさえなかったのでなんだか懐かしい気分にさえなった。
手の流れの優雅さこそ記憶の母に足りないが、それでもレオニードは一曲踊りきった。
「さすが、姫さん。綺麗なもんやなあ。」
晃が残念そうに言った。
「折角だから、なんか話もしたかったんやけど、見つかってしもたみたいや。」
ちらりと晃が視線を逸らす。
そこにいたのは劉祜だった。使用人でもなく、部下の軍人でもなくそこに劉祜がいる事に驚いた。
「我が妃の美しい姿は我がものの筈だが?」
美しいという言葉にレオニードは吹き出しそうになる。
そんな事はまるで思ってないだろうにという気持ちと、踊りを見られていたのかという妙な気恥しさとがある。
姫と呼ばれることが嫌味なのは分かっている。
自国の王族特有のはかなげな美貌が自分に無いことも、レオニードは良く知っていた。
それなのにしごくまじめな顔で、美しき妃として扱う劉祜が信じられなかったのだ。
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