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暴虐王の過去8

「レオニードの境遇には、同情してるよ。」 劉祜は静かに言った。 だけど、あの時何も思わなかった訳じゃない。 「それでも……、少しだけ羨ましかったんだ。」 羨ましい? 話の流れ的にありえない言葉にレオニードは不思議に思う。 羨ましがられるような要素が何もない。 一つだけ思い当たるのは“奇跡”をもって生まれてきた事だ。 レオニードは自分の首に下がっている石の付いた紐を取る。 それから、それを劉祜の首にかける。 「そういう意味じゃ……。」 打ち消そうとする劉祜の言葉をレオニードが遮る。 「その石は、愛する者を守るらしい。 愛がなんだかはさておき、婚姻した相手に渡すのが習わしだってことだ。」 実際最近では王族でも石を持って生まれてくるものは少数だ。 それこそ、レオニードがそれをもって王族だと決められる程度にこの石は希少なものではある。 けれど、本当に奇跡を起こすかはレオニードは知らない。 そもそも、目の前の男を愛しているかといわれてもよく分からない。 最初は渡すつもりは無かったし、今だってレオニードは自分の夫という認識は正直なところ無い。 愛している人に渡さないと意味が無いのかさえ分からない御伽噺を由来として、レオニードの国では輝石のついたアクセサリーを結婚するときには贈りあうという風習が残っているだけだ。 けれど、馬鹿な自分を憐れんでくれた王様に、当たり前の様に隣国を滅ぼしたと言ってしまう目の前の男に何か誓いをたてたかった。 「別に人殺し位、俺だってしたことがある。」 レオニードは元軍人だ。 大規模な戦争に巻き込まれたことは無いけれど、人を殺したことはある。 自分と暴虐王に違いはあるのだろうか。 こういう時にどんな表情をしていいのか分からなくて、目を細める。 劉祜は石をそっとつまむと自分の瞳の前にかざした。

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