56 / 124
暴虐王の過去12
「敵は……?」
不思議だった、まるで皆で一丸となって戦わねばならぬ敵がいるという様な話だった。
世界をよりよくするために、精神的な団結が必要という様なニュアンスには聞こえなかった。
だから、恐らく劉祜には想定している敵がいるのだろう。
「レオニードも軍人であれば気が付いている筈だ。」
はっきりと言われるが、思い当たる節は無い。
「軍人になってから、一番殺したものは?」
先ほどまでの話しに戻るのだろうか。レオニードが人を殺したことの話をもう一度すればいいのか。そこまで考えたところで、別の答えにいきつく。
「俺が一番殺したのは、魔獣だ。」
レオニードが言うと劉祜は満足気に笑う。
どうやら正解したらしい。
「でも、あれは単なる野生動物だろ?」
確かに、人間が襲われることも多いし、群れになると建物や畑も被害にあっている。
けれどそれは自然の中の事だ。
人間に害をなす魔獣は退治しているが、その動きを予測することは出来ないから場当たり的な対応だった。
国境の警備と、山賊の類との戦闘、それから魔獣の駆除がレオニードの軍人としての仕事だった。
それほど位が高かった訳ではないため要人の警護はした事がないし、幸いなことにレオニードの任期中に大きな災害も無かった。
だから、レオニードが一番殺したものは魔獣だ。
「もし、それが法則性があって動いているとしたら?」
もしと言葉を付けてはいるが劉祜には確信がある様に見える。
この男はその法則に気が付いたというのか、気が付いてそれに対応しようとしているのか。
「誰が、操っているんだ?」
まるで正解だと言わんばかりに劉祜は口角を上げて、ニヤリと笑った。
ともだちにシェアしよう!