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暴虐王の過去15
悲鳴を上げない様に訓練を受けている。
だから、声を出さなかったのかもしれない。
劉祜が先に一言言ったからかどうかはレオニードにも分からなかった。
軍で訓練したとはいえ想定されているのはこういう状況ではない。
そこにいたのは一人の少女、だったものだった。
木の幹だろうか、それとも何かの生き物なのだろうか。
硬いもの様に見えるが、規則的に脈打っているものが少女に絡みついて一部は少女と同化してしまっている様に見える。
「いつもは入り浸ってるのに、今日は晃はいないんだな。」
「男の嫉妬は醜いですよ。」
朗らかに少女は言う。
それは酷く場違いの様に見える。
哀れな姿の少女が出すものとは明らかに違う、楽しそうな声だった。
彼女がきっとお姫様なのだろう。何故昔話をしていたのに今も少女のままなのかは分からないけれど、それ以外考えられない。
劉祜達よりもずっと年下に見える、まだ子供の姿をしていた。
「あら。紹介してくださらないの?
それとも平民同士で仲良くして、わたくしには挨拶もしてくださらないの?」
少女はこちらを見ているのに視線は合わない。
彼女の目はいつからかは知らないが見えないのだ。
ふわり、ふわりと視線だけはさまよわせるけれどそれはおぼつかない。
それよりもお姫様が劉祜に言った平民という言葉の方が気になった。
「こちらレオニード。
俺の番だよ。」
劉祜は俺の事を紹介する。
レオニードのことを番だと紹介したことに少しだけ驚いた。
「どうも、はじめまして。」
極力優しく聞こえる様に少女に話しかける。
「あら、ついに伴侶が出来たのかしら。
婚礼に招待もしないなんて相変わらず失礼な人ね。」
お姫様に言われて劉祜はため息を付く。
「まだ、婚礼はしてないよ。」
「相変わらず、甲斐性がないのね。」
ふふふと面白そうに少女が笑った。
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