61 / 124
暴虐王の過去17
帰りも劉祜は無言のままだった。
レオニードも何から訊ねればいいのか分からなかった。
レオニードの部屋に着いた後、一言だけ劉祜は呟いた。
「奇跡なんてものはおきない。」
その言葉に何も答える事が出来なかった。
レオニードは多分その時初めて強く奇跡をおこしたいと思ったのかもしれない。
少なくとも劉祜のために奇跡がおきればいいのにと思ってしまっている。
この優しい王様に、奇跡がおこればいいと願ってしまう。
けれど、無責任に口に出すことはできなかった。
――いつかきっと奇跡はおきる。
多分今まで努力を重ねてきた暴虐王に伝えていい言葉ではない気がした。
奇跡なんてものにすがれなかった彼の行きついた先が、今の地位で今の彼なのだろうから。
何も言葉を返せないし、励ましの言葉も浮かばない。
彼に差し出せる言葉が何もないということに気が付いてしまう。
でも、それでも。
レオニードは腕を広げると劉祜に抱きつく。
抱きしめてそっと、ポンポンと手で劉祜の体を撫でてやる。
昔母にされたみたいに劉祜を抱きしめる。
その方法が正しかったかは分からないけれど、他に何も浮かばなかったのだ。
他に彼に優しくしてやる方法が何もレオニードには思い浮かばなかった。
劉祜は振り払わなかったし、怒りもしなかった。
暫くただレオニードに抱きしめられた後、ふらりとそのまま部屋を出ていってしまった。
ともだちにシェアしよう!