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誓い4
何が嫌だったかは自分でもよく分かっている。
こんな生活が普通だと思っている劉祜が嫌だった。
自分も元軍人で殺したり殺されたりする生活だったが、それは非日常だと分かっていた。
日常が別にあるからこそレオニードは軍人をしていられた。
劉祜はこちらが日常なのだ。
初めて彼にあった時の、寂しい背中を唐突に思い出した。
「愛してる。」
守ってやりたい。大丈夫なんてこと無いのだと吐露させてやりたい。
つかめる藁にさえなれないのにそんなことを思ってしまう。
何を伝えていいのか分からなかった。
先に言わなきゃいけない事も、作らなければならない信頼もあることは分かっていたのに、レオニードの口から出たのは自分の気持ちの吐露だった。
しかも他に人のいる前だ。
馬鹿かと思った時にはもう遅い。
「は、ハハッ……。」
それなのに目の前の暴虐王様はらしさを捨てて嬉しそうに笑っている。
本当に嬉しそうに目を細め、のどの奥を震わせて声を出している。
護衛にぎょっとした顔で見られているのも気にせず、劉祜はひとしきり笑うとそれから「離宮へ急ごうか。」とだけ言った。
レオニードの伝えた言葉には何も返事は無かった。
別にそれでいいとレオニードは思う。
離宮へ急ぐならその方がいい。
他の刺客が潜んでいるかもしれないのだから。
「護衛から予備の弓を借りてもいいでしょうか?」
レオニードが声をかけると劉祜は頷く。
すぐに用意された弓と幾ばくかの矢を担ぐとレオニードは馬に乗った。
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