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奇跡1
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今より少し前の時代、まだ魔法使いが多くいた頃のことです。
北の真珠と言われているある国のお話です。
その国の最初の王様は守護の力の強い特別な魔法使いでした。その力は神様から貰ったものとも言われています。
その特別な王様の子供はたくさんいます。
みな不思議なことに産まれてきた時にキラキラと輝く輝石を握りしめていました。
特別な王様はその石と子供達に特別な力があることに気が付き喜びました。
それは自分の持っている守護の力の一部だったからです。
王様は子供たちにその守護の力を使ってよく国を守るようにと言いました
それから数代の後、最初の王様の子孫達は相変わらず輝石を持って産まれて来ました。
男の子も女の子もみな同じように美しい輝石を持っていました。
その中の一人、ある姫君は紺色のとても美しい石を持って生まれてきました。
その石は夜空に星屑を散りばめたような宝石でした。
姫君はある勇敢な騎士の家に嫁ぎました。
政略と思われるかもしれない結婚でしたが二人は深く愛し合っていました。
二人にとって結婚生活はとても幸せでした。
けれどそれは長くは続きませんでした。
この国の地下にいる大地の龍が暴れだしたからです。
騎士は龍の討伐に向かわねばなりません。
大地の龍はとても強く騎士が再び戻って来ることは難しいと思われました。
姫君は騎士に無事に帰って欲しいと祈りを捧げました。そしてその祈りを込めた輝石を騎士に渡しました。
輝石は姫君が持って産まれたあの守護の力が込められているという石です。
騎士はその石を大切に懐にしまって龍のもとに向かいました。
戦いは熾烈を極めました。
何度も騎士達は危ない目にあいましたがついに龍にとどめを刺しました。
その時です。地の龍は最後の力を振り絞って騎士に牙をたてました。
騎士の体貫かれ騎士は息絶えようとしていました。その時です。騎士は不思議な光に包まれました。
それは小さな空の星が瞬くような光でした。
気がつくと龍の牙は灰になっていて騎士の傷は治っていました。
騎士の仲間達は奇跡だと喝采をあげました。
騎士にはあの星屑に見覚えがあった。姫君から預かったあの輝石の輝きと一緒だったからだ。
きっと彼女の祈りが騎士を救ったのでしょう。
騎士は姫君の元に帰ると、出向かえた彼女をしっかりと抱きしめました。
二人はそれからも末永く幸せに暮らしました。
星空の輝きを閉じ込めたような輝石には気が付くとひびが入ってしまっていました。
それから姫君の体には、龍の牙の様な小さな傷ができてしまいました。
けれど、心の美しい姫君はそれを気にはしませんでした。
騎士も傷跡の残る姫君を今まで通り、深く深く愛しました。
真珠の国ではそれ以降広く結婚の際に輝石のついたアクセサリーを伴侶に贈り合う習慣があります。
姫君が騎士を守ろうと輝石を贈ったことにあやかるものだ。
伝わっているおとぎ話はだいたいこのような内容だ。
騎士が王子様になっていたり、龍が戦争に変わっていたりとかなり色々と違って伝わっているものも多いが概ね筋は変わらない。
そもそも奇跡なんて存在しない。
だからこそ、昨日劉祜とレオニードは結ばれたのだ。そう思っていた。
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朝食はこの部屋で食べようかと劉祜に言われる。
別にどこでもいいと言いかけて、腰がきしんでいる事実を思い出す。
それは、甘やかな痛みだ。
愛おしい痛みを感じながら「じゃあ、ここで二人で食べるのがいい」と答えた。
身支度は二人とも整えていた。
劉祜の首元にはレオニードの石が揺れていたし、レオニードも服をきちんと着こんでいつも通り担当も懐に入っている。
いつもと同じ朝なのに、けだるくて、甘やかな雰囲気が二人の間にはあった。
この屋敷には誰もいないと劉祜は言っていた。
彼が用意してくれるのだろうか。
暴虐王と呼ばれている男の行動には思えなくて、少し笑える。
「すぐに戻るから。」
そう言うと劉祜はレオニードの元を離れた。
ぼんやりとしながらも、昨日の事をレオニードは頭の中で反芻しなおす。
きっと宮殿に戻ったら、また今までと同じような日々になるのだろう。
劉祜は忙しい。
二人きりを楽しめる事なんかめったにないだろう。
だけど、時々こうやって二人で過ごしたい。劉祜本人に言うつもりは無いけれど、レオニードはそう強く思った。
今度はあの王様を甘やかしてやりたい、そう願った。
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