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奇跡3
指先が少しだけ冷たくなっている気がする。
けれど、そんなことはどうでも良かった。
はたして、レオニードの向った通路の先に劉祜はいた。
けれど彼に相対していた人物をみてレオニードは驚きを隠せなかった。
刺客がいる事は分かっていた。
レオニードが自分でけがをしたわけではない。
劉祜は勝手に一人で怪我をするような男ではない。
だからこそ怪我を引き受けているのだ。
「|晃《こう》……。」
レオニードが名前を呼んだ瞬間だった、劉祜に対峙している男、晃が舌打ちをした。
それが合図の様なものだった。
先ほどまでふらふらと一歩ずつ歩を進めていたにも関わらず、レオニードは機敏な動きで懐から短刀を取り出す。
そのまま、晃に突っ込むと、晃の振るった剣先を除け肩に切りつける。
晃の剣には血がべっとりとついていた。
ちらりとみた劉祜に具合の悪そうなところは無いが、服は腹のあたりがさけている。
――傷がついてからの身代わりという事か
一度付けたはずの傷が無くなるというありえない状況に晃が動揺したのだろう。
暗殺の為、晃が軽装であることを確認したレオニードは、そのまま晃の横腹を蹴る。
ふっとんだ晃を見てレオニードはふらつく。
「何故……。」
その言葉を自分が言ったのか劉祜が言ったのか、レオニードにはよく分からなかった。
意識がもうろうとしていて、もうそれすらも分からなくなっていた。
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