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奇跡4
レオニードはふらつく足で短刀を晃に向かって投げる。
晃の太ももに短刀がささり、うめき声が聞こえるまでほんの刹那の時間だった。
レオニードの足から力が抜ける。
ずっと呆けた様だった劉祜がレオニードに駆け寄る。
それを眺めてそれからレオニードは劉祜に手を伸ばして、撫でる様に劉祜に触れた。
彼はどこも怪我をしていない様だった。
よかった。最初にレオニードが思ったのはそれだった。
劉祜はどこにも傷は無かった。
「友達だったのにごめんな。」
そう言って、レオニードはちらりと晃の方を見た。
劉祜にとって晃が大切な人間だと知っている。
だからこそ、劉祜自身が反撃しなかったこともレオニードは分かっている。
彼が何故劉祜を襲ったのかは知らない。
劉祜と彼の因縁はあの地下の少女についてしか、レオニードは聞いていない。
それに、もうそれほど時間は無かった。
「……大丈夫だ。奇跡はおこるよ。」
レオニードの意識が遠のく。
もっと言わなければならない事は沢山ある気がするのに、言葉にならない。
出血量が多すぎるのだろうか。
全部引き受けられた事だけが救いだった。
レオニードの腹を抑える劉祜の表情が歪んでいる事だけが気がかりだった。
そこでぱたりとレオニードの意識は途切れた。
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