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許し5

「あれは、もう待てなかったんだ。」 劉祜は友の名を呼ばなかった。 劉祜は顔に悔しさを滲ませている。 晃が何を待てなかったかなんて明白だ。 「……地下の彼女の事でしょう?」 レオニードは劉祜がそんな表情をする理由を他に知らなかった。 それに晃がレオニードにした唯一のまともな話が彼女の件だったのだ。 政治の話なのだと、レオニードは思っていた部分もあった。 勿論、劉祜は皇帝だ。だから彼が何をするかは(まつりごと)なのだが、もっと個人の意思に関わらない話だと思いたかった。 「晃は彼女の事を本当に大切にしてるんですね。」 確認の様なものだった。 別にレオニードにとって、そんなことはどちらでもよかった。 大切なのは劉祜が二人をとても大切に思っている事だけだ。 「あなたが殺されそうになったのですよ。」 「分かってる。」 日常だからですか? と聞こうとしてやめる。 友人に命を狙われることは日常ではない。 そんな日常があってたまるか。 そんな事レオニードでも分かる。 自分が友に命を狙われて、それでもレオニードの事を気遣ってくれただけで充分なのだ。 「彼女の犠牲で成り立っている世界が晃には許せないんだ。」 じゃあ劉祜の犠牲によってこの世界が成り立っていることだって同じじゃないか、とはレオニードには言えなかった。 「彼女を救う方法はあるんだな?」 でなければ劉祜を殺そうとする意味が無い。 八つ当たりを友にするという次元では無かった。 劉祜を殺して少女を救い出す。 そういうプランが晃の中に無ければ、こんな大それた事実行できないと思いたかった。

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