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ユーリィ3

『もうすぐわかるわ。』というお姫様の言葉が頭の中で繰り返す。 多分彼女は知っていたのか。 そして、あの人もきっと知っていた。 自分が死ぬと気が付いて、僕をこのお姫様に託したのだろうか。 殺されるとわかっていてその事実をあの人は受け入れてしまったのだろうか。 暴虐王とこの国の皇帝陛下が呼ばれていたことは知っている。 それに対して何も思っていなかった訳ではない。 だけど、僕の主は、なんの力も無いただの人質だった。 それなのに……。 「知っていらっしゃったんですか?」 その日の夜、お姫様は僕に果実水をそっと差し出して座る様に言った。 慰めているのだろうと思った。 だけど、そんな慰めよりもあの人の亡骸をせめて一目という気持ちの方が強い。 僕の様な召使いが気軽にあの人の亡骸を見れるとは思っていないけれど、それでもとばかり考えていた。 「あなたを預かったのは、『約束』したからです。」 あのまま国に帰っても厄介者として殺されるのがオチですから。 お姫様は笑う。この国に来たばかりの僕であれば、それを嘘だと思えたのかもしれない。 けれど、今はそれが事実だと分かる。その勉強をさせてくださったのは僕の主と目の前のお姫様だ。 僕は今国に帰ればきっと彼女の言う様に責任を取らされて殺されてしまうだろう。 お姫様はふわりと笑う。 それはそれは面白そうに。 ああ、この人はあの人達が死んでも何も思わないのかと思った。 弑逆の王となる新しき皇帝の婚約者だという話も今日一日で嫌という程聞いた。 睨みつけそうになるのを我慢する。 なんとか一目でもという気持ちの方が強いからだ。 この人の気分を害してしまえばかなえられるかもしれないわずかな希望も無くなってしまう。 「預かったものは返すのが、私の常識なんですが、あなたはいかがかしら?」 突然。 本当になんの前触れもなく、姫様は僕に近づくと、僕の耳元でそう囁いた。 聞き返そうとしたときにはもうお姫様は僕から離れていた。 それから相変わらず、面白そうに笑っている。 僕を彼女は預かっていると言った。 そして、預かっているものは返すと伝えてきた。 あっ、と彼女の言葉に気が付いて思わず姫様をじいっと見てしまう。 この国だけではなく、どの国でも高貴な人に対しては行儀のよい事ではない。 言葉に出してはいけない事なのだ。 多分。 僕はドキドキとなり続ける心臓の音を聞きながら渡された果実水を飲んだ。 あの人の亡骸を見たいと申し出はしなかった。 一瞬僕が抱いてしまった疑念に、お姫様は気が付いたのかもしれない。 けれどお姫様は何も言わないで僕に小さな砂糖菓子の箱を渡した。 僕があの人に以前貰った砂糖菓子と同じものだった。 「今日はもう休みなさい。」 お姫様は僕を下がらせる。 信じていいのだろうか。待っていていいのだろうか。 声に出してしまうとすべてが嘘になってしまいそうで、誰にも話していない。 だけど、僕はそれから、お姫様の傍らであの人の帰りをずっと待っている。 了

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