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ユウリ視点11

「今日は暁先輩来てないんですか?」 貸し出しカウンターにいる前野さんが、僕に話しかけて来る。 返却カウンター─といっても前野さんと横並びの位置だ─で受け取った本の状態を一冊ずつ確かめては、返却ワゴンに並べるという作業を僕は繰り返していた。 落書きや破れ等の確認は勿論だが、栞やメモなどが挟まっていることがあるからだ。 「ユウリ先輩、聞いてます?」 返事をしない僕に前野さんが、返事を促してくる。 「うん。暁は来てないね」 「はぁ~」 返事をしたのに不満そうなため息を返された。何が悪かったのかと、手にした本から前野さんへ視線を移せば、彼女は呆れ顔で僕を見ていた。 「まぁ、その通りなんでしょうけど、普通はもうちょっと、ねぇ」 何やらぶつぶつ呟いているが、僕には意味がわからない。 「暁がいないのが問題?」 若干イラついて尋ねたら「そうきますか、いやもう、ユウリ先輩らしいっす」とゆう、更に理解不能な事を言い出したので、僕は彼女に構うのは止めて作業に戻ることにした。 「放置?放置ですか、ユウリ先輩って本性は、ドSですよね」 「前野さん、僕は何か君の気に障ることをしましたか?」 ドSと思われようが気にしないが、僕は仕方なく作業の手を止めて、彼女の話を聞く事にする。 「普通、来てないんですかって質問されたら、来られない理由を答えません?」 確かに普通はそうだと思うが、僕としては暁の不在理由を彼女に申告する理由がないから言わなかったのだけれど。 「どうせ、言う必要性がないとか思ってるんですよね」 僕の考えを読んだかのように言い当てられ、結構洞察力があるんだと、少しだけ感心して僕は頷いた。 「うゎ、認めたよ。ユウリ先輩、良い人オーラ消えてますよ」 「良い人オーラが何かは解らないけど、取りあえず今後君には日本人的礼儀正しさは不要って事でいいかな」 「へっ、それはどうゆう意味で…」 この夏休みに暁と知り合った前野さんは、メールを交わすほど暁と仲良くなっているらしい。正直なところ、どんなやり取りをしているのか、僕は気になっていた。 「まぁ、それはおいおい」 そう言って僕が微笑むと、前野さんが固まった。それを機に僕は残りの作業に集中する。早く終わらせて暁の待つ、華道部へ行くために。

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