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第28話

華道部に通うようになって一週間も過ぎれば、女の子達の中に男二人だけなのも、生態観測されているような(実際にそうだったと思う)視線にも慣れ、俺はユウリのマッサージを受け続けていた。 「なあ、ユウリ」 並べた椅子に仰向けに寝そべった俺は、目を閉じたままユウリに話し掛ける 「後夜祭はどうする?」 「まだ、決めてないけど。バンドとお笑いライヴにダンスだっけ」 後夜祭と言えば、普通は全員参加で出し物を観賞したりゲームをしたりだと思うのだけれど、俺の通う高校のそれは少し違っている。 学園祭の打ち上げとして、全校生徒の親睦を図るという建前ではあるが、実は各部のの命運を賭けた大きなイベントなのだ。 学園祭から後夜祭に掛けて、各部の出し物や成果物に対して、投票が行われる。 投票権は全校生徒教職員と来場者、一人につき一枚の投票用紙が配られ、その得票数により来期の部費の配分が決まるとなれば、ただの学校行事と疎かにする事は出来ない。 どの部も気合いを入れて取り組むわけだが、日中は各クラスでも模擬店やお化け屋敷に占いの館といった事出し物もあったりするので、票を稼ぐのはなかなか難しい。そこで始まったのが、後夜祭でのファイナルイベントなのだ。 もちろん時間に限りがあるから全ての部が出演出来るわけではない。事前に行われる抽選会で当りを引いた3つの部だけが、大量票を狙えるチャンスを手にするのだ。 しかもイベントは、一つの会場で順番に行うのではなく、同時刻にそれぞれの部が割り当てられた会場で集客数を競う事になるため、わざわざ学園祭とは別の出し物を準備する程だ。 そして今年の後夜祭への出演枠を手に入れたのが、軽音楽部とバスケットボール部、社交ダンス部で、ロックとお笑いのライヴ、それに参加型イベントとして社交ダンスが行われる事になっていた。 各会場への出入りは自由なので、今から何を見るか決めておく必要はなかったのだけれど、出し物の一つである「ワルツの夕べ」だけは、事前に準備が必要であった。 その演目通り、ダンス部員によるワルツを観賞するのだが、ワルツに触れ親しもうと言う目的から、事前に希望者に初歩のワルツを指導し当日のフリータイムでその成果を披露するとゆう趣向らしいのだが…… それがいつに間にか、片想い中の相手をダンスに誘い想いを告げるチャンスとみなされ、密かに盛り上がっているのであった。 「んー、特に決めてないよ。暁はどうなの」 ユウリの答えにホッとする。一葉を誘う為に、ワルツを習うと言われたらと、不安だったんだ。 「俺も別に決めてないんだけど、ワルツは無理かな~って」 これでロックか、お笑いライヴのどちらか、そうでないとしてもダンス部の演技を観賞するだけだと安心したのだけれど。 「無理って、暁はワルツ踊れないの」 そうだよ、俺も踊れないいよ~、と勝手にユウリも踊れないと決めつけていた俺に、ユウリがにっこり微笑んだ。 「僕、社交ダンスは一通り踊れるから、今日からワルツ教えてあげるね」

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