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第30話

「脱ぐなじゃねー。お前もさっさと脱いで、これ着けろ」 「へっ?何これ」 上着を脱がされないよう抵抗していた俺だったが、手渡された物をみて思わず動きが止まる。 「補正下着だ」 一見するとブラトップのようなそれは、カップ部分に立体的な膨らみが施されており、着けるだけで巨乳になれそうだ。 「何で俺がこんなの着けなきゃいけないんだよ」 補正下着を突き返した俺に、男は低い声で囁いた。 「補正下着がイヤなら、お前のおっぱい揉んで大きくするかぁ?」 ※ ※ ※ 「暁、大丈夫?」 衣装合わせから解放された俺とユウリは、行きつけの駄菓子屋のベンチで「きなこ棒」を食べていた。 「大丈夫だけど、疲れた」 いきなり現れて追い剥ぎのように俺とユウリを脱がせに掛かった男は、服飾研究会の会長だった。 最初は、ドレスはレンタルでと言っていた一葉だが、いつの間にか服飾研究会と合同展示と言う形で話を付け、衣装を作ってらうことになっていた。 とは言え、急遽決まった話なので、一から新しいものを仕立てる時間がない。そのため、過去に仕立てたドレスをリメイクする事にしたのだが、女性用に作ったドレスを暁が着れるかというのが問題だったらしい。 学園祭当日に向けた準備期間から考えると撮影は遅くとも一週間前には済ませなければいけないらしく、衣装や小物を準備する服飾研究会のメンバーは現在修羅場を迎えているとの事だ。 おっぱい揉むぞ発言に衝撃を受けた俺だったが、それでようやく衣装合わせなのだと気がついたので、素直に補正下着を着けてドレスに着替えた。 幸いサイズが合わずに着れないということにはならなかったので、それからは何枚もドレスを脱ぎ着し、その度に小物合わせたり補正箇所をチェックされたりした。 そんな事を一時間以上も繰り返していたら、ぐったり疲れきってしまった。 「僕の方は大したことなかったけど、やっぱりお姫様の衣装は大切だもんね」 確かにユウリが言うようにジュリエットの衣装は5着だが、ロミオの衣装は2着だけだ。つまりその分、撮影時の衣装替えや撮影枚数もジュリエットの方が多いと言うことだ。 「俺には無理だ。役を代わってくれよ~」 俺はユウリにすがり付いて懇願する。半分以上本気のお願いだ。 「暁の頼みだから、代わってあげたい気持ちはあるんだけど」 ユウリが俺の頭をよしよしと撫でてくれた。それだけで俺の疲れも癒される。 「僕、暁ならすごい可愛いお姫様になると思うし、そんな暁をエスコートしてみたいな」 思わず顔をあげた俺を、ユウリが見つめていた。 「暁は僕にエスコートされるのイヤ?」 そう言って、小首を傾げて笑うユウリに、俺がイヤと言えるはずもなく、赤くなった顔を隠すために俺は頷くしかなっかのである。

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