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ユウリ視点13
相変わらず休日はマークによる英国流の処世術を学びつつ、僕は事業の進捗状況を確認したり書類を片付けたりと忙しい時を過ごしていた。
ただ、この夏以降、僕はありふれた日常を、精一杯楽しむと決めていた。
「暁、全然おかしくないし、すごく似合ってるよ」
ジュリエットのドレスが出来上がったのは、撮影日前日の事だった。試着も出来ないまま、いきなり本番となった。
ロミオである僕の衣装は、ジュリエット程凝ったものではないし、基本はブラウスにパンツというスタイルで準備が大変ということもなかった。
「爆笑されるのも嫌だけど、似合ってると言われるのも、男としては微妙だよ」
暁は恥ずかしそうに、ぶつぶつ言っているが、僕にとって暁は性別を超えた存在だから、どんな姿であっても愛しいと思うだけだ。
二重の大きな目に、ふっくらした唇と、女性的なパーツを持っていた暁だから、メイクやウィッグで女装すれば、普通に可愛いだろうと予想はしていた。
お互いに身分を隠して出掛けた下町で出会うとゆう場面のため、今暁が来ているのは膝下丈のワンピースドレスだ。このまま町に出ても違和感はないだろうし、誰も男子高校生だとは思わないはずだ。
「いや~、ここまで化けるとは思わなかったな。しかも俺の好み、ど真ん中だよ。今度、デートしようぜ」
そう言って馴れ馴れしく暁の肩に腕を回すのは、服飾研究会の会長の松下だ。本来であれば衣装を納めた時点で彼の仕事は終わりの筈だが、直しが必要となった時のために撮影に参加することになったのだ。
「無理です。俺、男ですよ。ちょっと、先輩?なっ、何を」
「う~ん、俺は大丈夫だから、チュウも出来そうだよ」
松下の顔が暁の顔に被さるように近づいていく、がっしり肩をホールドされた状態の暁が身を捩って避ける。もちろんこの状況を、僕が見過ごせる筈がない。
「失礼」
そう声を掛けつつ、僕は右手で松下の顎を持ち上げ、左手で彼の左腕を捻りあげた。
「イタタっ」
「申し訳ありませんが、ジュリエットは私の大事な人なので、イタズラは止めていただけますか」
痛がる松下に、ニッコリ笑って見せたけど、もちろん内心では2、3発殴り倒している。
「ギブギブ、すまん。ドレスが良い出来だったんで、調子にのってました」
暁から手を放した松下が謝ってきたので、僕も彼の腕を解放する。
但し、顎は掴んだままだ。
「彼女は僕のなので駄目ですが、代わりに僕が相手になりますよ」
今度は僕が松下の顔を覗き込みながら囁く。
「ちょっと待って、ユウリくん。相手って?」
狼狽える松下の様子に、少しだけ僕の怒りは収まるが、今後の為にも釘は刺して置くべきだ。
「僕が、英国式のキスをお教えしますよ」
そう言って顔を近づける僕を、慌てて松下が止めるのは想定内だったのだけれど…。
「絶対、ダメ」
叫んだ暁に、僕は背後から羽交い締めにされていたのである。
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