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ユウリ視点14

「それでは、ただ今のシーンで、ロミ・ジュリはallupとなります」 華道部長が告げると、あちこちからお疲れさまの声が掛かる。 二日に渡る撮影も、お互いの障害を乗り越えたロミオとジュリエットが、手を取り合って旅立つとゆうシーンで最後だった。 「引き続き部員は、背景及び生け花の撮影に入りますので、気を抜かないように」 「はーい」「了解でーす」 過密スケジュールのなか休む暇なく動き出す女の子達に「お疲れさまでした」「一緒に作品作れて良かったです」「リアルで萌えたの初めてです」等と、明るく声をかけられる。 そんな活気溢れる雰囲気の中、僕は暁の手を握りしめたまま、ロミオとジュリエットの行く末に思いを馳せていた。 「ユウリ、終わりだって」 話しかける暁の声は聞こえていたが、僕は返事を返せなかった。 そんな僕の様子を心配したのか、暁が繋いだ手をぎゅっと握り締めた。 「疲れちゃった?」 僕を見上げる暁の瞳に、狼狽え情けない表情をした男の顔が映っている。 華道部の出し物に協力して欲しいと一葉に声を掛けられた時、僕は断るつもりだった。クラスの模擬店とは別に、所属する読書クラブでも幾つか展示の企画が上がっていたし、何より僕自身が注目されるような事を避けたかったからだ。 しかし断る僕に、お姫様役は暁である事、場合によってはキスシーンもありかな?と一葉は言ってのけた。 それを聞いて僕が「yes」と言う事を一葉は確信していたのだと、いまになって僕は悟った。例え芝居であっても僕が暁のパートナーを誰かに任せる筈がない、と彼女は知っていたのだろう。 安易な気持ちだったのと、演技の必要もなく衣装を着て写真を撮るだけと一葉に言われ、僕はシナリオに殆ど目を通していなかった。 撮影が進む毎に、それが誰もが知る名作とは似て非なるもので、時代や設定は異なるものの、まるで僕と暁の事を描いていると思った。 もちろん暁に女装癖があるわけでも、僕に恋しているわけではないけれど、この物語のロミオに僕は自分を重ねた。 暁にとって大事な人である筈の一葉と、早急に話をしなければと僕は思った。何をどう告げればいいのか、今はまだ定まっていないけれど、僕と暁の未来に彼女の存在が大きな鍵になると僕は感じていた。 「大丈夫?」 もう一度、暁が手を握り締め、物思いに耽る僕を現実に引き戻してくれる。 暖かい生身の暁の温もりに、僕もその手を握り返した。

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