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ユウリ視点15

視線が気になった。 普段とは異なる空間と化した校内で、チラチラと向けられる視線に僕は戸惑っている。とゆうより、イラついていた。 「なぁ、ユウリ。何か俺たち見られてる気しない?」 暁も気づいたようだ。あからさまに向けられる視線と、声を潜めているから聞こえないと思っている、女の子特有の甲高い声は断片的にだが僕の耳に届いていた。 自分に向けられる視線であれば、気にも止めずイラつく事などなかったんだ。 英国にいるときは蔑みに満ちた悪意の視線を投げられ、日本では容姿の違いから人の目を引いてきた。悪意と好意の違いはあれど、見知らぬ者に一方的に見られる事に辟易するが、意識の外に閉め出すことにもいい加減慣れていた。 「そう?」 暁に何でもない風に返しはしたものの、周りの視線が気になってしかたがない。 すれ違う女の子達が暁を見て騒ぎ始めるのも気になるが、上級生や下級生っぽい男子達が、ニヤついた顔で暁を見ているのが腹立たしい。 ただでさえ、人当たりの良い暁は男女問わず友人が多い。下級生にはなつかれるし、上級生には可愛がられる。 図書委員の前野さんとは会ったその日に連絡先交換してるし、松下なんて2、3度あっただけなのに、あの馴れ馴れしい態度は何なんだ? 「見るな、触るな、暁が減る」 そんな言葉が漏れそうになるのを、焼きそばと一緒に飲み下したのは、つい先程の事で、現在もモヤモヤは継続中だ。 だから、暁との思いで作りの一貫として協力した作品が、今の状況を産み出していると知った時、長年隠していた素の僕を、一葉に曝してしまったんだ。 ※ ※ ※ 「ちょ、ちょっとユウリ」 暁が教室から出て行くと同時に、僕は一葉に近づいた。ノーパソを奪い取り、一葉の腕を掴んで引き寄せる。 「話があるんだ。今すぐに」 怒りを抑えているため、いつもより低い声が出てしまう。驚いた顔で頷く一葉を引っ張って教室を後にしたものの、何処も人が溢れており静かに話せそうな場所を見つけるのが大変だった。 「ユウリ、痛いって」 右腕をペシペシと叩かれて、ハッとして僕は足を止めた。 「ごめん」 掴んでいた腕を放して謝ると、大丈夫と一葉は笑った。 「何か、難しそうな顔してるけど、大事な話?」 「うん」 「人のいるとこでは話せないこと、だよね?」 そうか~と言いながら、一葉は辺りを見回す。つられて僕も周囲に目をやれば、幾つもの視線が、興味深げに僕と一葉に向けられている。 「時間改めた方が良くない?」 確かにそうだと思う。まだ学園祭は終わってないし、この後もしなければいけない役割もある。人目を気にしつつ2、3分で済ませられる話でもない。 「じゃぁ、後夜祭の始まる前に、うちの部室でどうかな」 提案に乗る事にしたが、どうしても今、伝えておかなければならない事があった。 「これ流すのは、止めてくれるかな」 「えっ、何のこと」 目を逸らそうとする一葉の目の前に、ノーパソを掲げて見せる。 「約束、したよね」 「んぐっ」 言葉につまる一葉の様子に、少しだけモヤモヤを晴らした僕は、学園祭終了までの数時間、彼女をどうやって口説き落とすか、それだけを考えていたんだ。

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