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ユウリ視点16

「だって、本編終了後はメイキングってのはお約束でしょう?」 学園祭終了後、後夜祭開始前の時間。 僕は、この数週間で通いなれた華道部の部室を訪れていた。 「メイキングは有だと思うけど、約束したはずだよ」 ジュリエットが暁だと解らないようにする事。それがロミオを引き受ける条件だった。いくら化粧で素顔を隠しても元々暁を知っている者が見ればバレてしまうだろうが、そうでない人達にわざわざ暁を認識させる必要はない。 ただでさえ人好きのする暁だから、変に注目を集めてライバルを増やしたくなかった。 「名前は出さなかったし、メイクのとこもちぴっとだけだもん…」 僕から視線を逸らし言い訳する一葉に、済んだ事は仕方ないとため息混じりに伝えれば「あは、次は気をつけるね~」と、軽い返事が返ってくる。 『次?』と疑問に思うも、あえて触れずに僕は話を進めることにした。 「単刀直入に聞くけど、一葉は暁の事をどう思ってるの」 「どうって?」 「幼馴染みって事を抜きにして、異性として暁の事を好きかい?」 驚きの表情を見せた一葉だったが、質問の意図を図ろうとするかのように、僕の目を真正面から見つめて来る。 「何故、そんな質問をするの」 「僕が暁を好きだから」 「それは、like それとも love?」 一葉は嘘を許さないだろうし、僕も暁への気持ちに嘘をつきたくない。 「愛している」 しばしの沈黙。 同性に対して恋情を抱いていると告白した僕を、一葉はどう思っただろうか。気持ち悪い奴だと避けられ、暁の側に居る事さえ許して貰えないかもしれない。 最悪、僕の気持ちが一葉から暁に伝わり、友人という立場さえ失う可能性もある。 それでも僕が一葉に気持ちを伝える事にしたのは、彼女の書いたシナリオのせいだった。 あれは、あのストーリーは僕と暁の事だと感じたから…。 貴族と庶民、英国と日本、僕と暁の間にある生活や習慣の違いも、お互いに理解し協力しあえば、越えて行けると僕は思っている。けれど、性別という壁は越えて行くには高く険しい道程で、二人だけで乗り越えられるものではないはずだ。 だからこそ、暁を受け止められるよう、まずは己の立場を確固たるものにしなくてはならない。それと同時に信用出来る理解者が周りにいなければ、ロミオとジュリエットの原作と同様、この世での恋愛成就は叶わないかもしれない。 僕にとってのマークのように、一葉が暁にとってのよき理解者になってくれるはずだと僕は思ったんだ。 「私が暁を好きだとして、ユウリは私にどうして欲しいの。諦めろ、とか?」 一葉の問いに首を振る。 「そうじゃないよ。暁の側で、暁を見守ってほしいんだ」 「どういう意味?」 訝しげに首を傾げる一葉に、僕は高校卒業を待たずに帰国しなければならなくなった事を打ち明ける。 「そんな、暁は、暁には伝えたの?」 「いや、まだ…」 帰国を促す祖父の伝言を聞いたのは、あの夏の小旅行の時だった。それから何度も祖父と話をし、最初の約束通り高校卒業まで日本にいさせて欲しいと頼んだのだけれど。 「私からは言わないわよ。帰国の事も、ユウリの気持ちも」 「うん。そうしてもらえると有難い」 どうやら、これまで通りに接して貰えそうな一葉の様子に、安心して笑みがもれた。 「帰国までには、暁に気持ち伝えるんだよね?」 「言うつもりはないよ、今は…」 それから僕は改めて、暁への真摯な想いと彼の側に在ることが出来る未来への計画を、一葉に聞いてもらった。 僕と暁が一時離れる事になっても、きっと彼女の存在が、繋ぎ止めてくれると信じて。

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