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第35話

18時のアラームと同時に、学園祭終了となった。 もちろん、訪問客を即、強制退去という訳にはいかないから、後片付けをしつつお引き取りを促す時間が生じる。 通常であれば、混乱なくはけてゆく人並みが、今年は上手く誘導出来ていないのか、あちらこちらで人だかりが出来ていた。 「ジュリエットをされていた方ですよね」そう呼び掛けられるのも、一度や二度ではなくなっていた。 「あっ、はい。写真芝居観てくれたんですか?」「有難うございます。感想は華道部宛にお願いしてもいいですか?」 そんな言葉を繰り返し、引きつった笑顔で女の子達と写真に収まる。 女装を面白がられているだけの俺でこの状況なら、ユウリはどうなっているのか? 男の俺からみてもカッコよくて王子様みたいなユウリだ。無事を祈るしかなかった。 「あの、ロミオさんって華道部の人と付き合ってたりするんですか?」 終了時間から30分も過ぎると、流石に訪問客の姿は見当たらなくなっている。先程から写真を撮らせてくれと、順番待ちしていた女の子達も最後の一人になっていた。 「えっ、どーゆうこと」 突然の質問に驚いた俺は、そう尋ね返していた。 「私、お花の写真が撮りたくて、さっき華道部に行ったんです。そしたら、ロミオさんがアイドルみたいに可愛い人と、二人っきりでお話してたんですよ」 ユウリと……、相手は一葉だろうと俺は思った。 「いや、どうだろう」 俺と一緒だった休憩時間までは、ユウリに彼女はいなかったと断言できる。しかし、その別れ際にユウリは一葉に話があると言っていたし、この女の子の話が本当なら、ユウリは一葉に告白し二人は付き合う事になったのかもしれない。 「そうなんですか、美男美女でお似合いだなーなんて思っちゃったから」 「あはは、そうなんだ」 乾いた笑いしか出ない俺に、「ジュリエットさんもお似合いでしたよ」と、言い残して女の子は帰っていった。 後に残された俺は、無意識に足を動かし、一人になれる場所を探していた。 ※ ※ ※ 胸ポケットに入れたスマホが、着信を知らせ震え続けている。 その振動が、まるで止まりかけの俺の心臓を、叱咤しているようだ。 「何て言えばいい。おめでとう?幼馴染みと親友が付き合うなんて、嬉しいよ❗……とか?」 いつかは、ユウリが一葉に告白し、二人が恋人同士になれば、俺とユウリの仲にも変化がおとずれる事を覚悟してはいたんだ。だからと言って、ショックを受けないわけがなかった。 「ユウリと一葉からか」 鬼着信の履歴を確認すれば、二人からほぼ交互に着信していて、二人は一緒にいて、俺に付き合った旨の報告をしようと躍起になってるんだろうと思った。 「ちゃんと、おめでとうって言うから、今だけは一人にして欲しいんだ」 誰もいない理科棟の屋上で、俺は夜空を見上げた。何故、そんなところにいるかと言えば、後夜祭の会場から一番はなれていて静か。誰にも邪魔されず、感傷にひたりユウリを想う恋心に蓋をするためだ。 「星、綺麗だな」 屋上から見上げた空は、いつもより近く感じられる。 「ユウリにも見せたいな」 そう思ってしまった自分の女々しさに、とうとう涙が零れる。 ぼやける視界の中、俺は淡い光を放ち振動し続けるスマホの電源を、落としていた。

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