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第37話

「ホント、大丈夫だから……」 もう何度も繰り返す言葉が上滑りしている。俺の体調を心配したユウリが、迎えの車を頼んでいる。 「どれくらいで来れる?」 「ユウリ……」 これ以上俺の嘘に誰かを巻き込みたくなかった。話を聞いて欲しくて、スマホで話続けるユウリの気を引こうと、その手を掴んだ。 「んっ?」 視線は向けてくれたけれど、俺の言いたい事が解ったのか、ユウリは駄目だと言うように首を振った。 親友の恋が叶ったのに喜んであげられないどころか、嫉妬して一人拗ねて……。女々しく泣いてしまった事を知られたくないとついた嘘で、また心配と迷惑を掛けてしまった。 本当に自分が情けなくて、ユウリに顔が向けられない。そんな気持ちで俯いた俺の手を、ユウリが握り締めた。 俺が掴んだはずのユウリの手。いつの間にか握り直され、恋人繋ぎになっている。 もちろんそれに意味があるはずはないけれど、絡まりあった指の暖かさに、俺は涙が溢れそうになるのを必死で堪えていた。 ※ ※ ※ 「暁、横になっていいから」 ユウリに呼び出された車の後部座席で、俺は言われるがまま体を倒した。 迎えに来てくれたマークに、ユウリは開口一番病院へと告げる。 家まで送って貰えるだけで十分だからと、慌てて断る俺と心配だから病院にというユウリが言い合っていると、助手席に乗り込んだ一葉が「もう、帰ろーよ」と、うんざりした様子で声を掛けてくる。 その声に何となく冷静になったのは、俺だけではなかったはずだ。 しばし俺とユウリは見つめあい、お互いにクスッと笑みを漏らした。 「家まで送るよ」 「うん。ありがと」 そうして、ユウリと二人後部座席に収まった。横になれと言われ従ったのはいいが、そうすると俺の頭の落ち着く先は、ユウリの膝枕状態なわけで。 「ごめん、窮屈だよね」 仕事でユウリが出掛ける際は、基本リムジンでの移動だが、今日はその運転手が休日のため来られなかったらしい。代わりに来てくれたマークだったけれど、流石にリムジンの運転は不慣れらしく、私用使いの国産車でのお迎えとなったのだ。 「いや、十分でしょ」 そう返した俺の言葉はもちろん本音。だって、日本が世界に誇るメーカーの最高グレードのセダンだ。しかも、特別仕様のオーダーに違いないから、小さい家なら買えるくらいのお値段に違いない。 「着いたら起こすから、寝てていいよ」 そう言ってユウリが俺の頭を撫でる。目を閉じて、その指の感触に俺は意識を向けた。 やがて、俺の髪をすくユウリの指先から、じんわりと広がる温もりに俺は眠りへと堕ちて行った。

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