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ユウリ視点17
昨夜の暁の状況を思えば、そうなってしまったのは仕方がないと、頭では理解している。けれど、やっぱり、納得ができないんだ。
「まだ、気にしてるんですか」
朝から何度もスマホを取り出しては、引っ込めるを繰り返す僕に、マークが尋ねてくる。
「体調が悪いだけだと、彼は言っていたのでしょう?」
「ああ」
後夜祭の間、暁と連絡が取れなかった。
何度も電話もメールもしたけれど暁からの連絡はなく、そんな事は初めてで僕は心配で仕方なかった。
あちこち探し回っても見つからず、帰ってしまったのかと思ったが、教室に荷物が置かれたままだった。ここにいれば暁に会えると思い一人で待っていたら、僕が暁を探し回っている事に気付いた一葉も来てくれた。
僕の暁に対する気持ちを聞いても、一葉の態度は変わらなかった。彼女にとって大事な幼馴染みを、決して普通とは言えない道に引きずり込もうとしている僕に、嫌悪感や文句もあるだろうと思うが、そんな様子は一切見せなかた。
暁が僕の気持ちを受け入れてくれたとして、皆が一葉のように二人の関係を認めてくくれるはずがない。男同士という事も、住む国がや環境が異なることも、大きな障害となって二人の仲を引き裂こうとしてくる事だろう。
だからこそ、僕は誰にも負けない強い人間になって、暁を守らなければいけないんだ。それなのに、あんな事をマークにさせてしまうなんて…。
「あっちに帰ったら、ジムに通いたい。手配しておいてくれ」
「どうしたんですか、いきなり」
唐突な僕の申し出にマークはそう尋ねはしたが、週一ぐらいしか時間は取れませんと笑った。おまけに「姫抱っこ出来る程度の腕力をつけるには、その程度で十分ですし」と言って、僕の神経を逆撫でしてくるから性質が悪い。
その言葉に、昨日のイライラをまた思い出してしまう。
マークを呼んで具合が悪い暁を家に送るまでは良かった。疲れて寝てしまった暁を起こすのが可愛そうだったけれど、僕一人で彼を運べる腕力はなかったから、仕方なく暁を起こそうと声を掛けた。
「暁、家に着いたよ」
「うん、わかった」
そう言って暁は車を下りたけれど、足元が覚束ない。慌てて肩を貸したけれど、寝ぼけた状態の暁の体重を支えるだけで僕は精一杯だった。
「ありゃー、爆睡だね。こーなると、起きないよ暁は」
助手席から降りてきた一葉が、暁の顔を覗き込んで首を振った。
耳元で暁の寝息が聞こえるのと同時に、それまで何とか自力で立っていた暁の体からの力が抜ける。その結果支える体の重みが増し、僕は暁と一緒にひっくり返りそうになる。
せめて暁の下敷きになろうと身構えた瞬間、自分に掛かる暁の体重が軽くなった。
気づけば二人の背後から腕を伸ばしたマークが、軽々と暁を抱き上げていた。
「姫抱っこだ~」
何やら興奮している一葉の声が聞こえる。あまりの事に呆然としている僕を放置して、マークは暁を運んで行く。
「何をぼうーっとしてるんですか、先に行って暁様のご家族に事情を説明してくださいよ」
振り返ったマークの言葉に我に返った僕は、暁の家に駆け出したのだった。
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