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ユウリ視点18
「ユウリ様、クリスマスカードへの記入はお済みですか?」
「ああ、出来ている」
昨晩のうちに書き上げていたそれを、マークに手渡す。通年であれば、日本で選んだプレゼントと一緒に家族に直に手渡していたが、今年は日本で過ごすと決めていた。
クリスマスを一月後に控えた11月半ば、穏やかな日々を過ごしながらも、僕は焦燥感に囚われていた。
学園祭直後に比べれば最近は落ち着いてきたけれど、あの写真芝居の反響は大きいものだった。キャストの名前を公表していなかったにも関わらず、ジュリエットが暁である事は周知の事実となり、暁に近寄ってくる者が男女問わず増えてしまった。
人のいい暁だから、親しくした事のない相手でも、声を掛けられれば気さくに応じるし、あからさまな好意を向けてくる相手にも邪険な態度を取る事はなかった。
これまで暁を独占していた放課後の一時を邪魔されることもしばしばで、僕は自分が嫉妬深いことを認識せざるを得なかった。
「かしこまりました。では先日手配した品と合わせ、発送しておきます」
カードを受け取ったマークが下がろうとするのを、呼び止める。
「マークはどうするんだ。先に戻っていてもいいんだぞ」
英国にいるお祖父様に対し最後の悪あがきとばかりに、僕はこのクリスマス休暇を日本にいる事にした。もちろん、一日でも長く暁と一緒にいたいというのが一番の理由だ。だが、それにマークまで付き合う必要はないと伝えたかった。
「いえ、私も残ります。あちらに戻ればしばらく日本には来る機会はないでしょうし、私も別れを惜しみたい相手がおりますので」
そう言ってマークは笑ったが、それが本当なのか僕に気を使って言った事なのか、その時の僕には判断が出来なかった。
「ところで、暁さまには、まだ?」
頷く僕にマークは何か言いたそうにしたが、結局何も言わずに部屋を出て行った。
解っている。僕の気持ちも、僕がこれからどうするもりであるかも含め、早く暁に伝えなければいけないと思っている。
離れている間、友人としてでいいから、二人の仲が途切れる事がないように。
体は暁の側にいる事は出来なくても、心だけは側にいると暁に解って貰いたかった。
※ ※ ※
「今年の冬休みは、日本にいるつもりなんだ」
「マジ? じゃぁ、クリスマスパーティーしようぜ。あと、初詣も行こうな」
スマホ越しに暁の嬉しそうな声が聞こえる。日本に来てからクリスマス休暇だけは、英国に帰っていたから、暁とはクリスマスも新年も祝ったことがなかった。
そうか、暁と過ごす初めてのクリスマスなんだ。そう思うとこれまでの鬱々した気持ちが俄然楽しくなって来た。
そうだ、暁と一緒にいられる時を楽しまなくてどうするんだ。
僕がそう考えを改めていると、「あっ、ごめん。無理だよな」と急に暁が謝って来る。
「ユウリは仕事の付き合いとか、忙しいよな。そうじゃなきゃ、イギリスに帰ってるもんな」
残念そうな暁の声が、僕をせつなくさせる。
違う、そうじゃないんだ。そんな事のために僕は日本にいるんじゃない。暁の側にいるためだけに、暁の側にいられる時を一日でも多くしたかっただけなんだ。
「そんな事ないよ、暁。クリスマス休暇に仕事の付き合いを優先するなんてナンセンスだ。僕はクリスマスも新年も暁と一緒にいるつもりだよ」
休みの間中、ずっと一緒にいたい。そう告げたかったけれど、流石に引かれるだろうと言えなかった。その時の僕には言えずにいる事が多すぎたんだ。
「楽しみだ。早く冬休みになればいいのに…」
無邪気に喜ぶ暁の言葉に、僕は涙を堪えた。
別れの日が、迫っていた…。
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