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第41話 ー終章3ー
ユウリとクリスマス一色の街を気ままにぶらついた。楽しい時間を過ごせたが、さすがに歩き疲れた俺とユウリは、次の目的地に向かう事にした。
と言っても向かう先はユウリの家で、俺はそのまま一泊させてもらう予定だ。
「お邪魔します」
そう言ってユウリの後について玄関に入る。いつもなら、マークが出て来るところだが、今日に限ってはその姿がなかった。
「クリスマスだからね」
通年であればクリスマス休暇に入っている時期だが、今年はユウリが日本に残っているため、お手伝いさんや運転手さんも年末までは通って貰う事になっていた。しかし、イブとクリスマス当日は家族と過ごしてほしいからと、ユウリの計らいでお休みにしたらしい。
「マークは?」
通いの使用人とは違い、この家に住んでいるマークまでいないとしたら、ユウリと二人っきりでイブを過ごす事になる。
「友人と会うから、今日は帰らないって」
マークがユウリを放って自分の事を優先するなんて珍しいなと思いつつ、今晩は本当にユウリと二人きりなんだと嬉しくなる。
「ディナーの用意は、お手伝いさんがしてくれてるから、心配しないでね」
ユウリの言葉通り、ダイニングには豪華な料理が並べられていた。
テーブルのど真ん中に、丸々と太った七面鳥が銀のお盆に盛り付けられている。サイドメニューに茹でたポテトや人参、芽キャベツが彩りを添えていた。
その他にもミンスパイ・クリスマスプディング等の英国風メニューの他に、お寿司やフライドチキン等もあって、俺とユウリ二人では食べきれない量だった。
「何だか、あの日を思い出すな」
俺が呟くのに、ユウリが「スイカはないけどね」と、懐かしそうに微笑んだ。
※ ※ ※
昼間見た何処其処のイルミネーションが綺麗だとか、モール内のツリーの飾り付けが良かっただとか、お喋りをしつつ俺とユウリはディナーを楽しんだ。
美味しい料理を堪能した俺達は軽くダイニングを片付けると、交代で風呂に入った。
リビングに場所を移し、おつまみとシャンパンを用意する。
クリスマスだからと、またマークからシャンパンの差し入れがあった。あくまでも、イエスの誕生を祝うため、日本で言うなら御神酒のつもりでとの、マークのメッセージ付きだ。
安易に飲酒を許しているわけではないと言いたいのだろうが、御神酒を持ち出してくるマークの知識は何処から仕入れているのかと俺は首を傾げた。
「メリークリスマス」
「まだ、イブだけどね」
笑いながらグラスを合わせる。ユウリと過ごす初めてのクリスマス。こうして聖なる夜から共に過ごせるとは思ってもみなかった。
この夜の記憶を、忘れる事はないだろうと、その時の俺は思っていた。
もちろん、幸せな記憶として……
その時の俺は知らなかったんだ。
このあとユウリに告げられた事実に、幸せな気分は一気に吹き飛んでしまう事を。
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