63 / 65
第43話 ー終章5ー
『何を勘違いしたかは聞かないけど。ユウリは暁との時間を大切にしてるんだよ。拗ねてる時間が勿体ないでしょ』
そう言った彼女の表情を、その時は気にも止めなかったのに。
「帰るって決まったのは、いつ?」
急に決まったんだよな。だから、俺に話すのも今日になったんだろ?
そう聞きたかったのだけれど。
「8月の終り頃かな、祖父から連絡があって。約束通り卒業まで居させて欲しいって、何度も話し合ったんだけど、ダメで。それでも、何とか二学期が終わるまではって」
「そうなんだ…」
随分前に決まっていたんだ。
俺には何も言わず、帰る準備をしてたって事だ。
そんなの当たり前か、俺はただの友人でしかないんだから。
「一葉にも伝えなきゃ」
呟いて鞄からスマホを取り出そうとした俺の手をユウリが掴まえる。
「一葉は知ってるから」
「え?」
「一葉には学園祭の時に話したから」
一葉には前もって話してた。
どうして?ユウリの帰国は、俺にとってすごく大事な話なのに。
俺には知らせなくてもいいと思ってた?
「明日帰るんだ、バイバイ」
そう言って別れられる程度の関係でしかなかったのだろうか?
俺が思う程には、ユウリにとって俺の存在は価値がないのだと思った。
結局、恋人同士にはならなかったけれど、ユウリの中で一葉は好きだった人として、記憶に残るだろう。
だが、俺は?
異国で数年を共にした、ただの男友達。本来の居場所でこれから、友として付き合うに相応しい身分の者と知り合って行くだろうユウリの記憶に、俺はいつまで残っていられるだろう。
「嫌だ」
何かに頭を締め付けられるような、脳がくらくらするような圧迫感に囚われる。ドクドクと脈打つ心臓が苦しくて、目頭に涙が滲んだ。
「暁?どうしたの」
心配そうに顔を覗き込んで来たユウリの顔に、押さえていた怒りが爆発した。
「忘れるなんて、赦さないから」
俺の言葉に驚くユウリを押し倒し、唇を重ねユウリの声を奪った。
もがくユウリを体の下に敷き込んで動きを封じる。
ユウリの柔らかい唇を甘咬みして、隙間から舌を差し入れた。
ユウリが驚きに固まっているのを良い事に、俺はユウリの服を剥ぎ取った。
友人だと思っていた男に、襲われている事実にユウリは呆然とした表情で俺を見つめている。
何故?という声にならない問いを、その視線は訴えていたが、俺は無視した。
唇を貪ったまま、ユウリの薄い体を撫で回す。体温が上がりピンク色に染まった肌に我慢できず、首筋に吸い付いた。
解放されたユウリの口からは、浅い息漏れるばかりで、拒絶の言葉は聞こえなかった。
たががはずれ、己の欲求を満たすことに専念した俺は、性急にズボンの前を寛げた。
既に下着毎ずり下げていたユウリのズボンを完全に取り去って、むき出しになったそれに、自分自身を擦り付ける。
腰を擦り合わせ、それでも足りず、二つまとめて両手で握り締めた。
快感を得るために手を上下させながら、俺は昼間見たイルミネーションを思い出していた。
きらきら光る街並みを二人で歩けるだけで、幸せだと思っていたのに。
本当はユウリを傷つけても、嫌われても自分のものにしたくて、仕方がなかっのだ。
想いの限り、愛撫し扱き上げたそれが、ビクビクと脈打つさまを俺は見つめていた。
俺の指が触れる全てが、絹のように滑らかで、甘い蜜に群がる虫のように、
ただただ彼の全てに魅せられて、独り善がりに快楽に溺れた……。
これまで押さえていた欲望が、鎖を解かれた獣のように、彼の裸身を貪欲に貪り食らいつくす。
快楽の間を越えた、発散できぬ絶頂の波を、彼の身体に刻みたくて…。
握り締めた指先の向こう、白濁した飛沫が脳裏に浮かんだ午後の光に弾ける。
その瞬間、俺の初恋は、終わった。
ともだちにシェアしよう!