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裏・初恋 ー一葉編ー

「うん、じゃぁ、明日。ちゃんと迎えに来ないと、盗られるわよって、社長さんに伝えてね」 私の伝言に苦笑を漏らしつつ、「明日会えるのが楽しみです」と言って電話は切れた。すぐに、私もって言えない事を彼は知っているから、返事を待つこともしない。 「ようやく、お役御免か~」 溜め息と共に呟いて、私はベッドに寝転がった。考えるのは、隣に住む幼馴染みの事。同じ年に生まれ姉弟のように育った。親同士が仲が良かった事もあり、保育園から高校までずっと一緒の時を過ごした。 男女の友情は成り立たないと言われるけれど、私と暁に限ってはそれは当てはまらなかった。高校生の頃までは、同じベッドで寝ちゃう事もあったけど、色っぽい雰囲気は微塵もなかったし、そもそも、思春期の男女が徹夜でゲームに励んでるって、お互い無いなって感じでしょ? そんな、親友って言葉だけでは足りない、双子の弟(俺が兄だって言い返されるけど)のような、暁が恋をしてると感じたのはいつ頃だっただろう……。 私達は、中学生になっても仲良く登下校していた。家が隣同士で、同じ場所に同じ時間に辿り付くように生活すればそうなるし、ただの習慣でしかない。だから、周りに冷やかされたからって、別々に登校する方が不自然だと思っていた。 そんな、長く続いた二人の時間に、ある日突然、王子様が降臨したんだ。 「ユウリ、これが一葉。一応、女だけど頑丈だから気を使わないでいいからな」 そんな言葉で暁が私を紹介していたが、私は驚きに固まっていた。いや、私だけじゃない。その場に居合わせたクラスの女子全員がそうだった。 『これが噂の転校生か。本当に美人だったんだ』 ハーフの物凄い美人が転入してきたと噂になっていたけれど、私はまだ本人を見掛けた事がなかった。いくらハーフでも、男子に美人ってどうよ?なんて思っていたのに、目の前の彼は正しく美人と言って過言ではない容姿をしていた。 「ユウリです、ヨロシク」と、差し出された手を握って、こちらこそと返せたのは、間近で暁を見慣れていたせいかもしれない。ユウリとはタイプは違うけれど、暁も人目を引く容姿をしていたから。 「てゆうか、一応、女とか、頑丈ってゆうのはどうゆう事?」 挨拶もそこそこに、いきなり暁に喰って掛かった私を、この時ユウリがどう思ったのかは知らないけれど、それ以降三人で行動する事が多くなった。 中学を卒業し、三人揃って同じ高校に入学が決まったころ、暁の様子がおかしいと感じたっけ。きっと、もうこの頃には暁はユウリを意識していたんだと思う。 三人でいると何となく暁の行動がぎこちない。私と暁だけ、暁とユウリだけでいる時は普通なのに、三人でいると妙に緊張して私の様子を伺っている感じ? 私とユウリが話していると、黙りこんで寂しそうにしている。話に入りたいのかと意識して話を振っても、頷くばかりで口を挟もうとしない。 おいおい、マイブラザー、一体どうしちゃったんだYO~って。 まぁ、それも高校に入って直ぐに理由は判明した。何故か、暁とユウリが私の彼氏の座を奪い合ってるとか何とか。 無いから、ユウリはわからんが、暁に限って無いから……。そう思ったらピンときた。そうか暁は不安だったんだと、但しどっちに対して? まぁ、この時点で私は気づいてたんだよ。故に始まったBL道とも、言えるね。 暁のカミングアウトを待たずに、その道を理解しようと頑張った結果が今に至るよね。あっ、そうなんです、一応、同人誌を経てBL作家として、デビューはたしてます。 うわっ、話逸れたし回想部分長いって、突っ込み入りそうなんで、まとめ。 ユウリが突然イギリスに帰る事になってから、五年の月日が経った。 二人の思い出の一つになったであろう学園祭の日、ユウリは私に頼んだんだ。自分の代わりに暁の側にいて、暁を見守って欲しい。更に我が儘を言えば、変な虫を寄せ付けないで欲しい。それが無理なら逐一全てを報告しろ❗と…… あの時のユウリの鬼気迫る表情を見れば、断れる訳がなかった。ましてや、そのかわりと持ち出して来た条件に、心底肝が冷えました。 うんうんと頷きながら、私は弟を悪魔に売り飛ばす契約をしちゃったんではと思ったけれど。暁の気持ちを考えれば、両想いって事だと嬉しい気持ちにもなったんだ。 それなのに、あの晩、二人の関係が崩れてしまった。 五年前のクリスマスイブに、暁とユウリの間に何があったのか、私は知らない。 でも、二人は今でもお互いを想い合っている。それは、この五年という日々を、私と彼で見守って来たから解る、事実。 明日、ようやく王子様が暁を迎えに来てくれる。 脇役の乱入とか、姫の混乱とか多少の波乱があると思うけど。 この物語は、ハッピーエンドだと信じてる。 いや、ハッピーエンドになってもらわなきゃ困るよ。 だって、私と彼のハッピーサイドストーリーも控えてるんだから。 「喜んで、お受けします」 五年前に答えられなかった言葉を、明日彼に言おう。 約束の指に嵌めたリングに、想いを込めて、私はキスを落とした。

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