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第3話
しばらくたわいない話を続けたが、着信したメールに呼び出された一葉は、いそいそと帰り支度を始める。
呼び出した相手は、彼女曰く同じ趣味を持つ、数少ない貴重な同士らしい。
「なぁ、それって俺の知ってる娘なの?」
にたにたと不気味な笑みを浮かべていた一葉が、動きを止めて俺を凝視する。
「ん? お前の趣味ってあれだろ、ボーイズなんたら。まさか同じクラスの奴じゃないよな」
高2になって俺と一葉は同じクラスになった。
掲示板の前で『ユウリの方が良かった』と本音を漏らした俺に、一緒に登校していた一葉から容赦ない蹴りが入ったのは言うまでもない。
「えっ、違うよ。彼…、同じクラスじゃないし。あんたのし、知らない人だよ」
別に詮索するつもりではなかったのだが…、一葉の様子がおかしい。
かみ気味で返事をしながら、視線を逸らす。
何だこの反応。
珍しくきょどってる?
これは、やましいことがあるに違いない。
長い付き合いだから解る。
こいつ絶対!ろくでもないことしてるはずだ。
「一葉っ」
「じゃ、私帰るぅ~」
問い質そうとした俺の呼び掛けを無視して、一葉は教室を飛び出して行った。
※ ※ ※
逃げ帰る一葉の顔が、何故か真っ赤だった事に唖然としていると、突然視界が遮られる。
と同時に、俺の左耳に心地いい声と共に吐息が掛かる。
「だーれ、だぁ?」
「何で質問してる方が、尋ね気味なの?」
背後から両手で俺の目を塞いでいる相手に聞いてみる。
「ん~。こうゆう遊びしたことないから、あってるかなって」
「大丈夫、あってるよ。ユウリ」
ユウリの手首を捕まえて、そのまま引き寄せる。
引っ張られたユウリが、俺におぶさるような格好になり、その温もりが俺の背中に伝わる。
「一葉は…、どうかした?」
頭の上から降ってくるユウリの声はいつも通りだけど、俺の首筋に押し付けられたユウリの喉は震えている。
「ああ、友達に呼び出されて帰ったよ」
走り去る一葉の姿を、ユウリは見たのだろう。
「ああ、多分華道クラブの仲いい子、えっと真澄ちゃんだたっけ? 彼女と待ち合わせだってさ」
一葉を好きなユウリの不安を取り除くため、俺はそう答えた。
実際に誰に会ってるのかは知らないが、一葉が華道クラブに所属しているのは嘘ではない。
ただ、そのクラブは花を活けるより『薔薇だ!百合だ!』と、そっち系の小説や漫画を読み耽って語り合うのが主な活動らしいのだが...
もちろんユウリには内緒だ。
一葉の本性を知ったら繊細なユウリの神経が破壊されかねない。
時々、本当の事をばらしてユウリの目を一葉から逸らしてやりたい気持ちになるが、ユウリを傷つけるのは絶対に嫌だから、我慢している。
それに、例えユウリが一葉に幻滅したからと言って、俺を好きになってくれる事はないんだから。
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