5 / 65

第4話

「一葉、顔真っ赤だったし、逃げてくみたいだった」 一瞬の事だったろうに、一葉の様子をユウリはしっかりと見ていたようだ。 いつも一葉の事を気にしているユウリに、せめて二人でいる時は、俺だけを見て欲しいなんて思ってしまう。 もちろん、俺の我が儘なんだって解ってる。 「もしかして、一葉に告白とかしてたりしない?」 苦笑まじりのユウリの声が、俺の心に突き刺さる。 嫉妬 不安 疑惑 そんな感情をユウリから向けられる日が来るなんて.... 一葉の事が好きすぎて、親友の俺さえ信じられないのだろうか? 「するわけねーだろうがっ」 おぶさったままの、ユウリの頭に手を伸ばす。 「一葉は幼なじみで妹みたいなもんだって」 わしゃわしゃと撫でれば、少しクセのあるユウリの髪が、俺の指に絡みつく。 「んっ、そうだよね」 俺に、ぎゅうってしがみつきながら、ユウリが呟く。 「ごめんね。好きだから....」 か細い声。 こんなふうに密着していなければ、聞き取れないだろう。 「わかってる。大丈夫だよ、ユウリ」 首に回されたユウリの腕を外し、背後を振り返れば、俺の顔を覗き込むユウリの視線とぶつかる。 卵形の小さい顔の中に、絶妙のバランスで配置された目鼻立ち。 二重の、それでいて切れ長の目に収まる瞳は、金色。 その瞳が光の加減や、ユウリの感情を映して褐色やシャンパンゴールドに変化する事を俺は知っている。 栗色の髪と同じ眉毛や睫毛、英国紳士らしくないスッと通った鼻筋、薄いけど弧を描く唇は、俺の欲望を刺激してやまない。 その、恋してやまない端正な顔が、俺の鼻先数十センチ先にある。 このまま唇を合わせ、俺の思いの丈をユウリに知らしめたい。 そんな事、できるはずもないのに。 想いだけは膨れ上がる。 夜な夜な見る夢の中。 ユウリの衣服を剥ぎ取り、その体を貪り尽くすのは、俺だ。 親友だ、絶対ユウリを傷付けないと言っている側から、ユウリを汚したい、俺の色に染め上げたいと思っている。 最低なんだ、俺は...。 本当はユウリの隣に、並び立つ資格なんてないんだ。 「ねぇ、まだ何かある?」 俺から遠ざかるように、体を捩ったユウリが声を掛ける。 捕らえたままだったユウリの腕を放し、俺は微笑む。 「いや、何もないよ。帰ろうか、ユウリ」 胸の痛みは、しくしくと続いていたけれど、ユウリといられる放課後は貴重だったから、無理やり押さえ込んで、俺はユウリと共に教室を後にした。

ともだちにシェアしよう!