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第4話
「一葉、顔真っ赤だったし、逃げてくみたいだった」
一瞬の事だったろうに、一葉の様子をユウリはしっかりと見ていたようだ。
いつも一葉の事を気にしているユウリに、せめて二人でいる時は、俺だけを見て欲しいなんて思ってしまう。
もちろん、俺の我が儘なんだって解ってる。
「もしかして、一葉に告白とかしてたりしない?」
苦笑まじりのユウリの声が、俺の心に突き刺さる。
嫉妬 不安 疑惑
そんな感情をユウリから向けられる日が来るなんて....
一葉の事が好きすぎて、親友の俺さえ信じられないのだろうか?
「するわけねーだろうがっ」
おぶさったままの、ユウリの頭に手を伸ばす。
「一葉は幼なじみで妹みたいなもんだって」
わしゃわしゃと撫でれば、少しクセのあるユウリの髪が、俺の指に絡みつく。
「んっ、そうだよね」
俺に、ぎゅうってしがみつきながら、ユウリが呟く。
「ごめんね。好きだから....」
か細い声。
こんなふうに密着していなければ、聞き取れないだろう。
「わかってる。大丈夫だよ、ユウリ」
首に回されたユウリの腕を外し、背後を振り返れば、俺の顔を覗き込むユウリの視線とぶつかる。
卵形の小さい顔の中に、絶妙のバランスで配置された目鼻立ち。
二重の、それでいて切れ長の目に収まる瞳は、金色。
その瞳が光の加減や、ユウリの感情を映して褐色やシャンパンゴールドに変化する事を俺は知っている。
栗色の髪と同じ眉毛や睫毛、英国紳士らしくないスッと通った鼻筋、薄いけど弧を描く唇は、俺の欲望を刺激してやまない。
その、恋してやまない端正な顔が、俺の鼻先数十センチ先にある。
このまま唇を合わせ、俺の思いの丈をユウリに知らしめたい。
そんな事、できるはずもないのに。
想いだけは膨れ上がる。
夜な夜な見る夢の中。
ユウリの衣服を剥ぎ取り、その体を貪り尽くすのは、俺だ。
親友だ、絶対ユウリを傷付けないと言っている側から、ユウリを汚したい、俺の色に染め上げたいと思っている。
最低なんだ、俺は...。
本当はユウリの隣に、並び立つ資格なんてないんだ。
「ねぇ、まだ何かある?」
俺から遠ざかるように、体を捩ったユウリが声を掛ける。
捕らえたままだったユウリの腕を放し、俺は微笑む。
「いや、何もないよ。帰ろうか、ユウリ」
胸の痛みは、しくしくと続いていたけれど、ユウリといられる放課後は貴重だったから、無理やり押さえ込んで、俺はユウリと共に教室を後にした。
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