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ユウリ視点 1
夏休みに行われる蔵書点検のスケジュールを決めるだけなのに、何故こんなに時間が掛かるのだろう。
せっかくの休みに学校に来て作業をさせられるのが嫌だから?
この日は誰が、その日は誰と誰が出られないと、全員が集まれる日が合わないから?
嫌な事を避けたい、出来れば無い事にしたい。
そんな心理が働いているから、建設的な意見が出ず時間ばかりが過ぎてゆく。
図書委員になったんだから、参加するのは義務。
全員が作業をすれば良いだけだから、日にちを統一する必要はない。
予め個々に書架を分担し、それぞれ都合のよい日に作業する。
それで解決なんだけどな。
終わらない議論とも言えない、愚痴り合いにうんざりしながら、一時間以上待たせている彼の事を考える。
僕にとって、日本で送る中学、高校生活というのは、はっきり言って無意味なものだ。
それは進学校だ有名校だ等とゆう下らない理由ではなく、今後僕が生きてゆく環境が日本とゆう閉鎖的な社会ではなく、英国の....現代では特殊と言える貴族社会で立ち回っていかなければならないからだ。
優秀の意味合いが異なると言えば良いのだろうか?
東大やオックスフォードで首席を取ったからと言って、あの血筋と名誉、古く腐り果てたような権威を至上とする、閉鎖的な社会には全く無意味なものだ。
あそこで生きて、その地位を維持し、少しでものしあがりたいと思うのであれば、もの心つく前から、同程度の身分の者に触れ、強みも弱味も取り込んで、社交界で生き抜く術を学ぶのが最善であったから。
まだ家の事情を必要以上に押しつけられず、柔らかさを残したままの多感な時期に、いろいろな方面の友人を得ておく事が、自分の将来への土台となるのだ。
そんな、一般庶民とは意味合いの違う友情を育まねばならぬ時期を、僕は無駄にしている。
では、何故そのような馬鹿げた事をしているかと言えば、複数の有益な知人を得るより、この世にただ一人の彼と過ごしたいと思った、ただそれだけだ。
彼とたわいもない話をしたり、放課後映画を見に行ったり、ファストフード店で飲み物とポテトで数時間粘ったり。
しがらみも打算もない、極普通の日々を過ごすことに喜びを得ていたから。
だからこそ、英国で学ぶべき事柄を、週末や休日につめこまれる生活を受け入れているのだ。
それなのに、僕は何をしているのだろう?
彼を待たせて、下らないミーティングに時間を削られている。
学校の方針で特別な事情がない限り、二年までは何らかのクラブに所属しなければならなかった。
本当は彼と同じクラブに入るつもりだったのに、人数制限で抽選となった結果、見事にバラバラになってしまった。
「えーっと、時間も押してるし、取り敢えず今日はこれで解散しましょう」
何も決まらぬまま、図書委員長がミーティングの終了を告げる。
つまり、これまでの時間は、無駄になったと言うわけだ。
声に出さない溜め息をついて、僕は立ち上がった。
我先にと教室を出てゆく人波を避け、少し間を開けて廊下に出る。
彼に会いたくて、本当は走り出したかったけれど、物静な少年とゆう印象を保つため我慢する。
まるで全力疾走したように、ドキドキと逸る気持ちを押さえながら、僕は彼の元に向かったんだ。
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