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第7話
俺の様子を確かめようとユウリが身動ぎする度に、ユウリに接した俺の下腹が少しづつ熱を帯びる。
マズイ、このままでは勃つ❗
早くユウリを遠ざけないと、この状態がばれてしまう。
「後は水撒くだけだから、ユウリも早く鞄取ってきなよ」
「そうだね」
立ち上がったユウリが、もう一度俺の頬に触れてくる。
「さっきより熱は引いたみたいだけど。僕が戻るまで暁は休んでなきゃダメだよ」
「わかった。このまま待ってる」
俺の答えに満足したのか、微笑むユウリの顔が近付く。
「すぐ戻るから、良い子で待ってるんだよ」
言いながら俺の額にキスを落とす。
「じゃぁ、行ってくるね」
小走りでユウリは校舎へと戻って行った。
一人残された俺の耳に「可愛すぎる」とユウリの笑いを含んだ声が聞こえた気がするが、キスのせいで完勃ちしてしまった俺は「どうすりゃいいんだ」と困惑するほうが先で、その言葉の意味を考える暇はなかったのである。
※ ※ ※ ※ ※
「はー、汗かいたあとの炭酸サイコー」
あれから、戻ってきたユウリと手分けして水撒きを終えた俺たちは、行きつけのファストフード店に来ていた。
「もう一杯、買ってこようか?」
Lサイズのドリンクを殆ど一気飲みしてしまった俺に、笑いながらユウリが尋ねる。
「水も貰ってるし、また後でな」
トレイの上のポテトを2、3本摘まんで口に放り込む。
平日の夕方ということもあって、店内には俺たちと同じ学生の姿が多い。
あちこちから聞こえてくる話し声を、意味も解さず聞き流す。
どうせ大したことは話していないんだ。
たわいもないおしゃべり。
友人や大好きな彼氏・彼女と一緒にいたいから、時間を共有したくて寄り道をしてるんだ。
俺もユウリと一緒にいられる時間が大切で、今だけは他の事は後回し、ユウリの事を優先しようと思ってる。
「ユウリは夏休みに入ったら、あっちのお勉強漬けになるんだよな」
英国貴族であるユウリは、いづれイギリスへ戻らなければならない。
ユウリは貴族社会で生きていくために必要な知識を含め、家の事業を担っていくための経営学や帝王学といった事を、家庭教師から学んでいた。
ユウリにとって土日や祝日が本来の勉学の日で、日本の教育を受けている時間は彼の人生の時間を無駄にしていると、マークに言われた事がある。
マーカス・A・マクミラン…、ユウリの家庭教師である彼と初めて会ったのは中学3年になった頃だ。
学生時代を日本で過ごしたいというユウリの希望を飲む条件として、彼のお祖父さんが派遣してきたのがマークだった。
ハーフだけれど母親に良く似た日本人よりのユウリと違い、白銀の髪にブルーアイ、塑像のように目鼻立ちもはっきりした、いかにも外国人というマークの容姿はまだ子供でしかなかった俺を威圧し、日本人には慣れないストレートな物言いに冷たい奴という印象を受けた。
知り合って数年になる今も、打ち解けることはできないままだ。
「そうだね。向こうでの大学受験も控えてるし、本腰入れて貰いますよってマークも言ってたからね」
頬杖を付いてドリンクのストローを弄りながらユウリが答える。
「でも、全く休みがないなんて事はないだろう?」
「ん~、どうだろう。蔵書点検とかで登校しなきゃいけない日は休めるだろうけど。それ以外は要相談って感じかな」
つまり、マーク次第って事か。
俺と遊びに行くから休ませてくれなんて言っても却下されそうだ。
「何か理由は考えとくからさ、8月に入ったら海に行こうぜ」
「海?」
「ああ、できれば一泊したいんだけど、無理なら日帰りでもいいからさ」
ユウリといられる残り僅かな時間。
俺は、たくさんの思い出を作りたかった。
ユウリが側にいなくなっても、その思い出があれば、きっと一人でも大丈夫だから。
「行く。絶対行こう、暁」
嬉しそうなユウリの笑顔に、何故か心臓がキュってなったけど、ユウリを楽しませる計画を考えることで、俺はその感覚を意識の外に追いやったのだった。
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