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第8話
夏休み前の関門....期末テストを乗り越えた俺は、ユウリの蔵書点検の日と、園芸クラブのスケジュールを調整していた。
ユウリに指定された日は、休みに入ってすぐの七月末であったから、海へ行く計画と重なる事はなく安心していた。
しかも、幸運にも8月半ば過ぎの三日間は、マークが休みを取る事になったお陰で、
日帰りではなく二泊三日の小旅行が出来る事になった。
俺のウキウキ感はMAXに達していた。
「問題は、その頃まで大きくなってるかだよな~」
目の前の青々と繁る葉っぱに隠れるようにして、すくすく育っているスイカの実を確かめる。
これまでに6個の実をつけていたが、テニスボールサイズから育ちきれずに枯れてしまたものや実割れしてしまったものがあり、残りは3個になっている。
残りの実が十分な大きさに育ってくれなければ、俺の計画の一つが不意になってしまう。
正直焦る気持ちもあったが、手間をかければ応えるように成長してくれる植物に俺は癒されてもいた。
夏休みに入ってから一度もユウリに会えていなかった。
電話やメールで毎晩連絡は取り合っているけれど、側にいられず顔を見ることさえ出来ないのはこんなにも辛いと知った。
「ユウリがイギリスに帰っちゃったら、俺寂しくて死んじゃうかも」
スイカの実を撫でながら、ため息混じりに呟く。
今の姿を一葉に見られたら「さっさと告白して、ラブラブいちゃいちゃしなさいよ」なんて、鼻息荒く背中を押されまくるだろう。
俺とユウリが恋人関係になることを期待している一葉は、ユウリの気持ちを知らない。
本当はユウリの為に二人の仲を取り持ったほうがいいのだろうけど、ユウリの側を離れたくない俺は、ユウリの気持ちに気づかないふりをしている。
ユウリの恋を応援してやることが出来ない俺は、親友なんて言えるだろうか。
「ユウリが一葉の事が好きだって言ったらな。うん、その時は頑張るさ」
頑張ってこの恋心を封印して、二人が幸せになれるよう協力するよ。
だからそれまでは、側にいさせて欲しい。
切実に願った。
神様でも悪魔でも何でも良いから、俺の願いを聞くだけでも良いからお願いしますと。
※ ※ ※
「明日は迎えに行くから待ってろよ」
「うん、なんか久々に家の外に出るから緊張するな」
電話越しのユウリの声は弾んでいるが、俺はその内容に驚いた。
ユウリは休みに入ってから、家にこもりっぱなしなのか?
マークの奴どんなスケジュール組んでるんだ。
少しは息抜きも必要だろうに、あのドS教師め。
「それに、暁に会えるのが嬉しい」
心のなかでマークに毒づく俺の耳に、ユウリの声が甘く響いた。
嬉しいって、俺だって嬉しいぞ!
俺が犬だったらユウリに会った瞬間、嬉ションする自信あるぞ。
そう思ったが、流石にドン引きされるから口にはしない。
「うん、俺もだよ。じゃあ、明日な。寝坊しないように、早く寝ろよ」
「大丈夫だよ、もう寝るしって、お母さんかっ」
くすくす笑いながらユウリが突っ込みを入れる。
「お母さんじゃないし、格好いいお父さんですか~ら~」
二人して訳の解らないテンションで盛り上がる。
明日はユウリが蔵書点検で登校するため、俺も一緒に出掛ける事にしていた。
久々に二人で過ごせるんだ。
嬉しくて変なテンションになったって良いじゃないか。
ユウリも同じように感じてくれているなら、尚嬉しいに決まってる。
この夏は、きっと楽しい事が、待っている。
メインイベントは、8月の小旅行。
たくさんの思い出をユウリと作るんだ。
ただ、どんなに思い出があっても、寂しさは埋められないだろうと、俺は実感していたんだ。
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