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第9話

ユウリの登校日に併せ、園芸クラブの水巻き当番を合わせた俺は、自分に割り当てられた花壇以外の手入れを行っていた。 部員それぞれが好きな物を育てているため、水を巻くだけで済む物から、一々湿度管理(ビニールハウス風に囲いを作った者もいた)を言いつけられたものもあり、園芸クラブが任されている区域全ての手入れを終えるには、結構な時間が掛かる。 「ああ、今週は暁の当番だったのか、俺のところは大丈夫だ。他を回ってくれていいぞ」 「あざーっす。てゆうか先輩、毎日いますよね。暇なんですか、デートの予定もないんですか(笑)」 俺が管理する花壇の手前、1年生と2年生の校舎に挟まれた花壇に、その人の姿を発見する。 園芸クラブの1年先輩、樋口だ。 3年生ともなれば大学受験や、就職活動で多忙を極めるため、クラブに籍を置いたとしても夏休みに入るとフェードアウトしていくのが通例だ。 もちろん二学期に入って新部長を決める際に、正式に卒部と言う事になるのだけれど。 にも関わらず、樋口が夏休みに入ってからも自分に任された花壇の手入れにやってきていることを俺は知っていた。 俺もユウリに会えず暇をもてあまし、毎日スイカの様子を見に来ていたからだ。 「先輩、薔薇ってわりと強いですよね。毎日様子見ないとダメですか?」 樋口が育てているのは、大輪の薔薇だ。 花壇に直植えではなく、鉢植で育てている。 その数も5株程で、この時期であれば朝晩の水やりを欠かさなければ、問題はないはずだ。 「ん、そうだね。この子達も赤だし、特に弱い種類ってわけじゃないけどね」 俺の問いにちょっと恥ずかしそうに、樋口先輩が答える。 「実は卒業の記念とゆうか…、お世話になった先生にプレゼントしようと考えててさ」 「へ~、そうだったんですか。でも薔薇をプレゼントって、告白するみたいですね」 何となく思った事を口に出してしまう。 「はっ、いや、違うから。そんな事ないし、高田先生にはすごくお世話になったから、その純粋にお礼だよ、お礼」 俺の言葉に樋口先輩は、そう言い訳したけど、その顔は真っ赤だ。 ああ、図星か~。そっか、先生が相手じゃ在学中に告白は難しいよな。 樋口先輩も俺と一緒で、大事な人のために薔薇を育てていたんだ。 そう思うと応援したくなってきた。 「俺も友人を喜ばせたくて、スイカ育ててるんですよ。先輩の薔薇も綺麗に咲くといいですね」 俺に茶化す気がないと安心したのか、樋口先輩はホッとした表情を見せる。 「ああ、そうだな」 しばらく二人とも無言で薔薇を眺めていたんだけれど、俺は大事な事に気づいてしまった。 「あの先輩、薔薇の開花時期って早くても4月頃からじゃ」 「あっ!」 ・・・・・・・・・先輩、うっかり過ぎます・・・・・・・・ 「あはは、花束にしようとか全然思ってなかったし。ほら鉢植えだから、自宅で楽しんでも貰えばいいんだし。うん、そうだよ、お礼なんだし」 そうは言うものの、明らかにガックリと肩を落とす先輩が痛々しい。 「あー、そろそろ俺は次の花壇見てきますんで」 「おっ、おう」 俺のスイカは無事だろうか? 急に不安になった俺は、自分の花壇まで小走りで向かう。 「良かった、変わりなかった」 青々とした葉っぱに囲まれ、昨日と同じ位置に3個のスイカはあった。 ほっと一息ついた俺は、もう一つ気付いてしまった。 「高田先生って、男だよな?」 俺は背後を振り返る。 この建物の向こう側でまだ樋口は薔薇の手入れをしているはずだ。 「Good luck」 親指を立てたポーズで、俺は呟いたのだった。

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