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第13話

「なぁ、俺どうしたらいい?」 ユウリの様子にテンパった俺は、一葉の部屋に直行していた。 惰眠を貪っていた一葉を叩き起こし、俺は今日のユウリの様子を話して聞かせた。 「どうって言われてもね~」 黒縁メガネにねずみ色のスウェットの上下、髪の毛はボサボサだし、頬にはヨダレの跡がこびりついている。学校や外出するときは、身なりに気を付けているようだが、素はオタクで腐女子だから、家にいる時の一葉は大体こんな様子だ。 家が隣で生まれた時から、いやお互いの母親の腹の中にいるときからの付き合いだ。 俺が連絡なしで押し掛けようが、取り繕う事もないから、一葉が慌てたり困った様子を見せたことはない。 まぁ、逆に一葉が俺の部屋に来ても同じような感じだ。 もう、マジで兄弟同様なんだよな。 「ヤキモチね」 「お前、腹減ってんのか」 人が悩んでる時に食い気かよと文句を言ったら、ティッシュの箱で頭を叩かれた。 「違うわよ!そうじゃなくて、嫉妬よ嫉妬」 「誰が、誰にだよ」 「ユウリがその後輩の子によ」 うんうん頷きながら、一葉は断言する。 「は?あり得ないだろ、何でユウリが嫉妬するんだ」 「それはもちろん、あんたがその子と親密になったからでしょ」 「親密って、初めて会って話しただけぞ」 「でも、アドレス交換するぐらいには仲良くなったんでしょ」 それは事実なんで、黙って頷いた。 「で、その様子をユウリは、ずーっと見せつけられてた訳でしょ。そりゃぁ、嫉妬もするわ。嫉妬心を煽るなんて、暁ったらいつの間にそんな高等テク覚えたの」 にやにや顔でそんな事をいうから、一葉の妄想スイッチが入ったんだと気付いた。 一葉の設定では、ユウリも俺の事を好きになっているらしい。 それが現実なら良いと思ってしまうけど、叶わぬ事だと俺は知っている。 だって、ユウリが好きなのは俺じゃない。 一葉、お前なんだよ。 「ユウリが茉莉ちゃんに嫉妬するはずないだろ」 否定する俺に、どうして?と一葉は尋ねる。 「ユウリはホモじゃない。俺なんかと一緒にするな」 ユウリの事が好き、それは本当だ。 でも、男を好きになる自分は普通じゃないんだって思ってる。 ユウリを汚したくないと思う一方で、あの陶器のように白い肌に触れ、己の熱を注ぎ込みたいと渇望している。 「俺みたいな変態と一緒だと思わないでくれよ」 好きな女に、そんな風に思われてると知ったらユウリがどんなにか傷付くだろう。 もちろん一葉に悪気はないんだ。一葉がそんな風に思うのも、俺がユウリを好きだと知っているから、きっと応援のつもりだ。 だからやっぱり悪いのは俺なんだ。俺がユウリを好きになったせいなんだ。 「暁は変態じゃないよ。ホモとか、そうゆうんじゃないよ」 俯いた俺の頭を一葉が撫でる。 子供の頃からお互いに何かあると、こうして慰めあった。 「暁はユウリが女性だったら好きにならなかった?」 声を出したら泣きそうで、俺は首をふった。 「暁は、性別とか何者であるとか関係無く、ユウリが好き。そうでしょ」 「腐女子が、語ってんじゃねぇ」 言い返す声が震えてるのはバレバレだったけど、一葉は知らんぷりで微笑むだけだった。

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