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ユウリ視点5
「いい加減に、お止め頂けませんか?」
アフタヌーンティーの準備を整えたメイドがさがるや、淡々とマークが告げる。
「何をだ?」
ティーカップに角砂糖を一つ入れ、銀のスプーンでぐるぐる中身をかき混ぜながら僕は尋ねる。
「そのため息ですよ。朝から何度も何度も鬱陶しい。昨日外出されてから、機嫌を損ねてらっしゃるようですね。ご友人とつまらない喧嘩でもしたのでしょうが、周囲の者に不機嫌そうに接するのはお止めなさい」
呆れを含んだ口調と、つまらない喧嘩と言われた事にムカついて、思わず怒鳴り返す。
「Shut your gob!」
僕の向かい側のソファーに腰掛けているマークを睨み付けるが、彼は動ずることもなく紅茶を口にする。
ロシア系移民の祖父を持つマークは雪のような白い肌に、深海を思わせる青い瞳をしている。
身長は180cmを越える大男だが、細身できびきびとした身のこなしや、硬質な口調から愚鈍さは一切感じさせない。
白銀の紙は短く整えられ常に一筋の乱れもない。まるで氷の塑像のようだと、密かにユウリは思っている。
「いけませんね。あなたはご自分の立場を、まだ解っていないのですか?」
何事もなかったかのように紅茶を飲み終えたマークが、半眼から青い瞳を覗かせながら僕を値踏みするかのように見つめる。
「あなたは、ただの子供ではないのですよ」
その言葉に僕は無意識に背筋を正した。
幼い頃から言われ続けた言葉に、心ではなく身体が勝手に反応したのだ。
「あなたの行動ひとつで、多くの人の人生が変わってしまうのですよ。感情をさらけ出してはいけません。それを指摘されたからといって、動揺するようでは事業を担うトップとしても一族を代表する者としても不適格です」
声を荒げる事なく自分自身も弁えているつもりの事柄を、マークに一々指摘されるのは僕のちっぽけなプライドを傷付ける。
「感情一つ御する事の出来ない者には、大切な人たった一人さえ守ることは出来ません」
そう言って僕を見下すマークの口角が笑みの形に上がるのを、悔しい気持ちと共に己の甘さに舌打ちしながら眺める。
どんなに言い訳しても、僕に非があるのは間違いない。
暁が女の子と仲良くしている事に嫉妬した。
暁が一葉以外の女の子と恋に落ちてしまう可能性を、全く考えていなかった事に気づかされ驚愕した。
そう、僕ら三人の微妙なバランスに何時でも誰かが割って入ることが出来ると思い知らされた僕は、自分の感情をコントロールすることが出来ずにいたんだ。
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