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ユウリ視点7
「ご自分で解決できますか?」
あの日と同じようにマークが僕に訊ねる。
時も場所も事柄も全く異なるが、その声を言葉を掛けられた時の安堵感を僕は思い出していた。
「大丈夫、僕自身が招いた事だ。自分で解決するよ」
暁の心が誰かに奪われるんじゃないかと不安になって、嫉妬を押さえきれず変な態度を取ってしまっただけだ。
こんな事でいちいち動揺しているようでは、友人以上の存在として暁を側に置いておく事なんて出来やしない。
誰憚ることなく二人でいられる未来のために、僕は努力し続けなければならないんだ。
「そうですか。では、明後日のキングストン社のレセプションパーティーまでには、解決して頂きたいですね」
アメリカの大手企業であるキングストン社が日本へ進出したのは昨年の事だ。
家具や生活雑貨を主力にマーケットを広げているが、この冬【Luxury Life】をコンセプトに富裕層をターゲットにした宝飾品の販売を始める事から、関係各社・要人を招いたパーティーを開くようだ。
今回僕が招待されたのは、海運業を手掛けるグループ会社の日本支部の理事を務めているからだ。もちろん理事と言っても学生の身分であるから、将来に向けた実践練習を行うための肩書きに過ぎない。
キングストン社とは日本支部以外でも付き合いがあり、会社としてこうしたパーティーの招待を受けるのは珍しいことではない。ただ、僕自身が会社の名を背負って公の場に出るのはこれが初となる。
「何か問題でも?」
「このパーティーには、万全を期して、とまでは言いませんが、疎かにならないよう、臨んで頂きたいのです」
本社のあるアメリカはもちろん、イギリスや欧州の拠点でも順次パーティーは開かれる予定のようだが、マークいわく日本で行われるそれには特別な意図があるらしい。
「あなたが招待された、日本でのパーティーに、わざわざ会長と社長がホストとして来日されるよです」
含みを持ったマークの言葉に、僕は眉根を寄せる。
「日本のマーケットを重要視してるって事じゃないのか」
「確かに日本のマーケットに魅力は感じているでしょうが、これまでの動向では日本支部のトップで済ませる規模のイベントに過ぎません」
ゆったりとしたソファーに腰掛けていたマークが、姿勢を正して僕を見据える。
「未だ表舞台に出てこない未来のグレイ財閥総帥を、ライバル他社よりも一足先に見極めようとの思惑でしょうね」
そう言うや、さも楽しそうにマークは口の端を歪める。
「たかだか創業四、五十年のヤンキー風情が、思い上がった行為をするものです。いいですか、ユウリ様!事業云々はどうでもよろしい。あなた個人が侮られる事がないように、いいですね」
凍てつくロシアの冬の空気がマークから漂ってくる。
あの日のマークもこうだったと、思わず僕は身震いする。
年端もいかぬ、助けを求めることすら解らぬ子供に対し、性的な虐待を行っていたバイオリン教師に対し、マークの取った制裁は厳しいものであった。
僕のレッスン教師を解雇されたのは言うまでもないが、イギリスの貴族階級はおろか一般市民のレッスンも出来ないよう、彼の卒業校に働きかけ卒業資格を取り消させたのだ。
その後の彼の人生がどうなったかは知らないが、僕以外にも被害にあっていた子供達は多数いたらしく、その当時のマークの判断は適切であったのだろう。
「というわけで、ユウリ様には懸念事項を取り除いて頂くために、今から明日に掛けてはフリーと致します」
「えっ?」
突然の事に理解できず聞き返した僕に、呆れたような口調でマークは告げる。
「明日までお勉強はお休みにしてあげますから、お友だちとさっさと仲直りしてください」
言葉とは裏腹に優しさを湛えたブルーの瞳が、僕を見守っていた。
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