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第14話
ユウリと気まずい別れ方をしてから二日後の朝。それまで日課にしていたスイカの水やりにも行かず、俺はベッドに転がっていた。園芸部の水まき当番も昨日で終わっていたから、無理に行く必要もなかった。
「もう、スイカの出番はないかもしれないしな…」
そもそもスイカを育てる動機からしておかしかったんだ。
愛情を注ぎ大きく育ててから、ユウリに割ってもらおうだなんて。
俺のこの恋心を、ユウリに断ち切ってもらいたいという暗い願望だったんだろうか。
俺ってマゾっ気あったの?痛いなーなんて考えながら、タオルケットを頭から被る。部屋の中は、汗ばむほどの気温だったが、頬に零れ落ちた涙を隠したかった。
そんな風に俺がうじうじ、めそめそしていると、枕元に置いていたスマホが鳴った。突然の事に驚いて飛び起きたが、さらにその着信音で俺の心臓はバクバク音をたて始める。
「もしもし、ユウリ。うん、起きてたよ」
それまでの情けない状態を隠し、俺はベッドの上で正座する。
「えっ、俺は全然大丈夫。駅まで迎えに行こうか?」
これから訪ねてもいいかというユウリの問いに、一気にテンションが上がる。
「そっか、マークが送ってくれるんだ。じゃあ、待ってるから」
思いがけずユウリに会える事になった嬉しさを噛み締めること数十秒。
我に返って部屋を見回した俺は、慌てて部屋の片付けに取り掛かったのである。
※ ※ ※ ※ ※
「ごめんね、突然来ちゃって」
謝るユウリに俺は微笑んだ。
「いや、来てくれて嬉しいよ、ユウリ」
本当に嬉しい。ユウリに嫌われたんじゃないかと、不安に思っていたから、めちゃくちゃ嬉しい。
「でも、勉強とか忙しかったんじゃないの。マークがよく許してくれたね」
夏休みに入ってから、ユウリを勉強漬けにし家の外にも出さなかったマークが、今日は俺の家まで送ってくるなんて…
そう考えた瞬間、今までの浮かれ気分が吹っ飛んだ。
スケジュール変更もやむを得ないほどの何かがあったんだろうか?
それは電話では済ませられない、ユウリが訪ねて来なければ話せないような内容なのではないだろうか。
「えっと、あの、それでユウリ、今日は一体どうしたのかな」
何を言われるのだろうと身構えてしまった俺の様子に、ユウリも戸惑いの表情を見せる。
「あのね」
話しかけるもユウリは下唇を噛んで俯く。
部屋に差し込む光を受けてユウリの長い睫毛が震えていた。
二人とも押し黙ったまま数分が過ぎた頃、覚悟を決めたようにユウリが顔を上げて俺を見つめた。
「ごめんなさい」
それは、突然の訪問に対するお詫びではないだろう。
何かを堪えるように、せつなげなユウリの表情に、ドキリとする。
抱きしめてキスをして、大丈夫だからと慰めてやりたい。そんな衝動が沸き起こる。
「僕、蔵書点検の帰りに変な態度を取ってしまった。きっと暁に嫌な思いさせちゃっただろ?ずっと気になって仕方がなかったんだ」
確かにあの日の事は俺も気にしていたどころではなかった。ユウリに嫌われたんじゃないかと、うじうじめそめそしてたぐらいだ。もちろんそんな事ユウリに言えるわけはない。
「嫌な思いなんてしてないよ。ただユウリが心配になっただけで」
「本当?怒ってない」
不安そうに首を傾げて訊ねるユウリの姿に、内心「可愛すぎる」と悶絶しながら平静を装って俺は答えた。
「もちろん。俺がユウリに怒るわけないじゃん」
「良かった、ありがとう」
そう言ってユウリが俺に抱き付いてくる。
あははと笑いながら受け止めた俺に、破壊力MAXの言葉をユウリが囁いた。
「暁、大好きだよ」
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