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第16話

木々の間を抜けて、爽やかな風が開け放したバルコニーから室内に入ってくる。 周りを木々に囲まれているせいか、八月半ばの本格的な暑さの中でも、窓を開ければエアコンは無用だった。 「荷物片付いた?」 そう言って部屋に入ってきたユウリは三つ揃いのスーツ姿から、麻地の膝上丈のパンツにライムイエローの開襟シャツに着替えていた。 スーツ姿のユウリは格好よくて見惚れる程だったが、カーゴパンツに黒Tの俺が側にいるのは似合わない、身分違いのような気がして、内心引け目を感じてしまった。 「うん、終わったとこ」 だから、普段着姿のユウリにほっとする。 「移動で、疲れちゃった?」 「いやそんなことないよ。俺は車に乗ってただけだし」 小旅行の行き先がユウリの会社の保養所に変更にはなったが、最初の予定通り移動は電車を利用するつもりだった。でも、急にユウリに外せない用事が入ってしまったため、急遽車で送って貰える事になったのだ。 グレイ家と懇意にしている家族が来日したため、ユウリは顔を会わせておかなければならなかったらしい。会食を終えたユウリは着替える間も惜しんで、俺を迎えに来てくれた。 「なら、いいけど。暁、お腹空いてるんじゃない。夕食前に何か軽いもの食べよっか?」 「そうだね。少し減ってるかも」 朝御飯兼昼食を11時頃に食べたきりだったのを思い出したとたん空腹を覚えたが、時刻は4時を過ぎたばかりで夕食にはまだ早い。 「OK。サンドイッチでいいかな?」 言いながらユウリは一階のキッチンへと降りて行く。 「俺も一緒に作るよ」 何となく沈んでいた気持ちを振り払い、俺はユウリの後を追った。 ※ ※ ※ ※ ※ サンドイッチで小腹を膨らませた俺たちは、保養所の周囲を散策していた。到着した時刻が中途半端だったので海へは明日行くことにしたが、俺は夕食の準備を始めるまでの僅かな時間も無駄にしたくなかった。 保養所となっている瀟洒な洋館は、一階にキッチンとバスルーム、ビリヤード台の置かれたリビングと、プロジェクターやPCで映像を楽しむ事が出来るビデオルームがあり、二階にはツインタイプの部屋が六室設けられている。 敷地内にはテニスコートとプールがあり、敷地の外郭に沿って作られた遊歩道はウォーキングにもってこいだ。 「暁、川があるよ」 俺とユウリは遊歩道をおしゃべりしながら歩いていた。洋館の裏手に当たる位置に辿り着いた時、せせらぎが聞こえてきた。 遊歩道を4、5メートル程外れた先に、幅2メートル程の小川が現れた。 「うわっ、冷たい」 川の水に手を浸したユウリが声を上げる。」 覗き込んでも然程深さはないようだったので、俺は靴を脱いで片足を水に突っ込んでみると深さは膝にも届かない。思いきって両足を川の中に突っ込み、俺は川縁に腰を下ろした。 「気持ちいいな」 呟いた俺の側にユウリも腰を下ろす。 「暁だけずるい」 ユウリが靴下を脱いで、俺と同じようにその足を川に浸す。 「本当だ。すごい気持ちいいね」 俺の顔を見て微笑んだユウリが、右足を跳ね上げる。 その動きに伴なって起きた水飛沫が、光を反射してキラキラと輝く。 穏やかな午後の景色の中で、俺は明日の予定を反芻するのであった。

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