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第17話
暁、もうルー入れてもいいかな?」
鍋の中身をかき混ぜながらユウリが聞いてくる。
「ん、ちょっと待って人参に火が通ってるかみてみるから」
ユウリからお玉を受け取って乱切りにした人参を一つ取り出す。
俺もユウリも普段料理なんてしないから、箱に書かれたレシピ頼りだ。
「大丈夫そう」
少し大き目の人参に、箸を突き刺して煮え具合を確かめた俺は、ユウリにお玉を返す。
ユウリは予め割っておいたルーを慎重に一かけらずつ鍋に入れては混ぜるを繰り返す。
液体が少しづつトロミを帯びて行くのと同時に、カレーの食欲をそそる匂いがしてくる。
「はぁ、俺もうお腹ペコペコだよ」
出来上がりが待ち遠しい俺は、ユウリの肩越しに鍋をのぞきこむ。
「ご飯も炊き上がってるし、もうちょっと待って」
「了解。じゃぁ、サラダ盛り付けるよ」
※ ※ ※
川遊びを楽しんだ俺とユウリは、保養所に戻ると早速夕食の準備に取りかかった。
ユウリと外泊するのも、こんな風に一緒に料理をするもの初めての経験だ。
出来上がったカレーは水の分量が多かったようで、少し緩かったが味は最高に美味しかった。珍しくユウリがおかわりするぐらいだったから、満点をつけてもいいだろう。
食事の後片付けを終えた俺たちは、順番に風呂に入った。
先に入らせて貰った俺は、火照った体を冷まそうとバルコニーに出る。
「星が…」
バルコニーから眺めた夜空に、たくさんの星が輝いていた。
人気の避暑地だから田舎というわけではないのだけれど、ここは周囲の灯りが少ないお陰で星がよく見えるようだ。
キラキラ輝く夏の星座。
名前を教えて貰ったものもあるだろうが、星の多さにどれがそれなのか、俺には見分けがつかない。それでもその美しさに目を奪われた俺は、ユウリが声を掛けるまで星を見続けていた。
「暁、何処にいるの?」
俺を探すユウリの声に応える。
「ここだよ」
俺の声を聞き付けてユウリがバルコニーにやって来る。
「涼しい」
俺の隣に並んだユウリから風呂上がりの温もりが伝わってくる。漂ってくる石鹸の匂いは俺と同じはずだが、ユウリを介すとまるで甘い綿菓子のようで俺はその匂いを密かに吸い込む。
甘い香りと輝く星に包まれ、癒されまくりの俺だったが、本番は明日だと気合いを入れ直す。
ユウリの経験したことのないスイカ割り。
それを楽しんでもらう、それが一番の目的。そして、スイカは俺が端正込めて育てたものだ。
明日は海だ。
今日のようにユウリと初めての体験をする事が出来るかもしれない。
違う、そうじゃない。
明日は新しい一日、ユウリと過ごす二人きりのバカンスなんだ。
ユウリに喜んで貰える一日にする、そう思い直した時だった。
「あっ、流れ星」
ユウリの指差す先に、光の尾を引いた星が一つ流れていった。
『ユウリが上手くスイカを割れますように』
俺は心の中で星に願うのだった。
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