27 / 65
第19話
ユウリがかき氷を食べている間に、俺はスイカ割りの準備を始める。
ロッカーに入れておいた荷物の中から、ビニールシートを取り出す。
割ったスイカが砂まみれにならないようにであるが、逆に砂浜をスイカで汚さないためでもある。
「すみません。冷蔵庫に置かせてもらっていた物を取りに来たんですけど」
店の中にある厨房の入り口から、声を掛ける。
「暁?いいよ入って来て」
許可を貰った俺は厨房に入る。中にいたのはこの海の家のオーナーの娘の愛理さんだ。
日に焼けた肌に金髪、きりっとした目力も合わさって、やんちゃな人なのかなっていうのが最初の印象だった。
「これから、始めるの?」
冷やし中華のトッピングをしながら愛理さんが訊ねる。
「はい、ありがとうございました」
お礼を言って、俺は業務用の冷蔵庫の中から、スイカを取り出した。
20センチ程の小玉だけれど、中身は詰まっているのか、ずっしりとした重みがある。
「なぁ、結局ナンパしなかったのか?」
「だから、しませんって」
スイカを預かって貰う時に、愛理さんにはユウリのためにサプライズでスイカ割りを計画している事を話していた。
秘密を共有したせいか、愛理さんは俺たちに声を掛けてくれたり、賄いが余ったからと言って大盛りのチャーハンを食べさせてくれた。
そんな風に俺たちの様子を気にしていたらしい愛理さんは、二人きりで行楽地を訪れた俺たちを、友人も少なく、女の子をナンパする勇気もない寂しい青春を送っていると判断したようだ。
接客の合間に顔を会わす事があれば、あそこのグループは同い年だよとか、あの娘は性格良さそうだよとか、ナンパを促してくる。その度に、そーゆう目的では無いのでと断ったのだけれど、愛理さんは納得していなかったらしい。
俺の目的はユウリにスイカ割りをさせる事なんだ、そしてそれはもうすぐ実現する。ビニールシートを敷いて、そこに俺の育てたスイカをセットすれば完了。
後はユウリが棒を思いっきり降り下ろして、パカッと割るだけだ。
そこまで考えた俺は、スイカに次いで大事な物を準備するのを忘れていた事に気付いた。
「ああー、しまった」
思わず大声を出した俺に、ビックリさせんなと言いつつ、愛理さんが尋ねてくれる。
「割られる方の準備はしたのに、」
言いながら俺は、手にしたスイカを撫でる。
「割る方の準備忘れてました」
がっくりした俺に何だそんな事かと愛理さんが笑う。
「大丈夫だから、暁はユウリと場所確保して待ってろ」
その時の俺は、愛理さんの言葉を頼もしく思ったのだ。
ともだちにシェアしよう!